2015年10月30日金曜日

平成二十七年秋興帖 第七 (渡邉美保・ふけとしこ・佐藤りえ・望月士郎・衛藤夏子・小野裕三・堀本 吟・小林苑を・林雅樹)



渡邉美保
石に穴穿つ遊びをいわし雲
島暮れて酸橘百個の搾り汁
にれの木が森の入口色鳥来



ふけとしこ
子別れの鴉や窓に雨汚れ
走り根の抱へる水も澄みにけり
この駅へ通ひし日あり稲光



佐藤りえ
俯いて歩くよ秋の水を避け
武蔵野にむかし掘つ立て小屋の秋
回り道しない大人になつて秋
ガントリークレーンおとなしい宵寒
一団は踊りながらに過ぎて行く



望月士郎 (「海程」所属)
象に象重ねる銀漢までいくつ
めいめいの雨月の羊撫でて寝る
月の駅みんな待ってる紐電車
すすきはら母が背中に文字を書く
虫売りの妻です怖いとき笑う



衛藤夏子
露あれば星のしずくと思う朝
昼の月ふたりになって知るひとり
星月夜森に忘れたハイヒール



小野裕三(海程・豆の木)
秋郊のストロー一本惨劇のよう
雨音葉音槌音足音鉄道草
灯籠に集まりやすき唇あり



堀本 吟
擬態から真のいのちの火(ほ)が見える
音たてて銀河真中を流される
写生論どの満月もまんまるな
白かぼちゃただに置かれてある宇宙
電線の囲みに月という天体



小林苑を
天高し賑やかに行く春画展
椎の実を知らない子から貰ひけり
人類の絶へたるあとの欅の木




林雅樹(澤)
大学に芝刈る匂ひ鰯雲
虫の声高まる駅舎攻むるごと
デモに行く爺楽しさう銀杏踏み
秋出水デモ隊叫びつゝ流れ
川沿ひの小さな家や彼岸花





2015年10月23日金曜日

平成二十七年秋興帖 第六 (もてきまり・木村オサム・仲田陽子・月野ぽぽな・関根誠子・ななかまど・真崎一恵・とこうわらび・川嶋ぱんだ)



もてきまり
前の世の情事の余韻萩こぼれ
鬼なれば骨盤で漕ぐすすき原
逝くまでは次頁つづく野分かな



木村オサム(「玄鳥」)
目の前の烏瓜より説得す
飲み忘れた薬飛び出す鳳仙花
ニュートンの林檎売り物にはならず
聖骸布開いて芋の類出す
鼻孔より通じる永遠の芒原




仲田陽子
紙ヤスリかけても良夜凹凸す
小鳥来る致死の絵具を使いきり
鵙鳴くや足ばかり描くクロッキー
流星の捨てられている裏出口
ひと昔前を行くなり猫じゃらし





月野ぽぽな(「海程」)
水よりも水音澄みわたる夕べ
土にある戦の記憶曼珠沙華
うつしき引っ掻き傷よ流星は




関根誠子(寒雷・炎環・や・つうの会)
百日がもう了るのね百日紅
椿の実すこし歯を見せ行き違ふ
体内のしづかな秋を胃カメラは




ななかまど((   )俳句会)
満月を香ばしく焼く日曜日
武庫川に月見団子の降る心地
鉄棒をぐるりと回って星月夜
玻璃戸上り桔梗の花の開く音
栗飯の粒柔らかく片想い
平皿に檸檬潰れて死んでいる



真崎一恵 ((   )俳句会)
秋風や底意地悪いクロワッサン
秋の川靴に魚の棲んでをり
左手に小説右手には秋気
蚯蚓鳴く後ろで叫ぶ洗濯機
いつだって梅酒ばかりね蚯蚓鳴く
名月や肌荒れ気味の顔周り
秋茄子の顔を思い出して電話



とこうわらび ((   )俳句会)
送り火に送られゆくや夜の道
葡萄の実皮むくひまも待ちきれず
食卓に堂々と立つむかご飯
雨のたび一歩遠のく残暑かな
コスモスの波に揺れたるわが心



川嶋ぱんだ ((   )俳句会、船団の会)
初紅葉椅子よりながい君の脚
手をつなぐときは静かな秋の夜
路地裏を通って帰る月見かな
言うことを聞けよ十六夜まで待てよ
紅葉且つ散ってあなたを抱きしめる






2015年10月16日金曜日

平成二十七年秋興帖 第五 (内村恭子・小林かんな・石童庵・陽 美保子・堀田季何・小沢麻結)



内村恭子 (「天為」同人)
秋ともし壁をはみ出す天使像
法王が眼鏡を買ひに秋うらら
秋光の差し込む中庭の木椅子
要塞の獅子老いにけり霧の夜
秋空のいつもどこかに羽音して



小林かんな
朝の陽を背中に立ち上がる鹿は
うっとりと日に当たりつつけむり茸
秋光のところどころで手をつなぐ
ふもとには露草ひらく火口かな
とちゅうまで秋の燕と同じ道



石童庵
閑けさや草葉隠れに鹿威
分け入つても分け入つても茸無く
遅れじと水戸は皆死すすいつちよん



陽 美保子(「泉」同人)
吾亦紅みんな帰つてしまひけり
秋風や立てて血を抜く青魚
一幹を蔓固巻きに猟期来



堀田季何(澤)
豊年や光の兵器設計図
アーリントン国立墓地を穴惑
星月夜水漬く屍のかさなれり



小沢麻結
秋燕湖面を打ちて光蒔く
身に沁むや記録の中に予知夢あり
実紫彼女は俳句始むるか



2015年10月9日金曜日

平成二十七年秋興帖 第四(淺津 大雅・仮屋賢一・大瀬良陽生・神谷波・仲寒蟬)



淺津 大雅(「ふらここ」)
 城端むぎや祭三句
犬に夢中なり踊笠背負ひたる子
旅行者の撮る旅行者の笠踊
節の間に地へとんと突く踊笠

 東尋坊三句
露草や風に靡かぬ句碑三つ
青北風や崖上に子をかゝへ立つ
東映の三角出てきさうな海




仮屋賢一(関西俳句会「ふらここ」代表)
村芝居犬啼くたびに驚けり
きちきちのいちいち刻をすすめゆく
咲くときはまだ風知らぬ秋桜
弟子とらぬ貌の案山子の傾ぎをり
秋没日褒め合ふときの敬語かな
衣被名を訊くためにまづ名乗る
こほろぎや遅れて点きし厠の灯



大瀬良陽生
七夕や来世は何に生まれよう
蚯蚓鳴く星の見えざることに慣れ
天高し番狂わせを成し遂げて
爽やかや居合の親子向かい合ふ
日の丸く出て半月を生みにけり
卵焼き買ふ贅沢や秋の暮



神谷波
冬瓜を食べやすやすと眠りけり
稲妻や瞬きゆつくりアンドロイド
肉付きのよき舞茸の下半身
かろやかすぎ敬老の日の竹とんぼ



仲寒蟬
八月や南を上にアジア地図
星辰のずれる音して渡り鳥
跫音を聞かれてはだめ曼珠沙華
露けしや猫が水飲む舌の音
ストローをのぼる液体今日の月




2015年10月2日金曜日

平成二十七年秋興帖 第三 (五島高資・山本敏倖・網野月を・岡田由季・音羽紅子)




五島高資
昼の野に星の降るなり岩煙草
九字切りて手刀おさめる律の風
寝過ごしてひとり降り立つ銀河かな




山本敏倖(豈・山河)
ボクとぼく野菊を挟み戦争す
どの顔で扉を開ける鳥兜
サインコサイン三日月から落っこちる
いずこまで尻尾を伸ばす秋風鈴
あっ花火だ引っ込んだ手が触れてくる




網野月を
濁音と半濁音の滝の秋
青恋し停まって見上ぐ空の秋
秋は秋褪せて乾いてたじろがず
秋高しトロンプルイユに同化する
白き風半月輪欠く五輪塔




岡田由季(炎環・豆の木)
物言はぬ臓器と色を変へぬ松 
朗読の会桔梗が水を吸ふ 
鹿二頭生放送を横切りぬ




音羽紅子
コスモスのまだ小さきに風の来て
振り返る人のいなくて芒原
十五夜や誰も住まなくなつた家