2016年7月29日金曜日

平成二十八年花鳥篇 第八 (坂間恒子・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)




坂間恒子(「豈」「遊牧」)
風紋を感ずる足裏条黒蝶  
使徒となる泰山木の花の下
青すすき古墳の空気動くかな



下坂速穂(「クンツァイト」「屋根」)
何の花ほたるぶくろと揺れてゐて
愛鳥日畳に風を入れませう
蛍袋誰ぞ栖みたるやうに錆び



岬光世 (「クンツァイト」「翡翠」)
ひととほり習ひし踊り藤の房
枇杷色の浮子を乾したる夏柳
朝顔や面勝つ花は団十郎



依光正樹 (「クンツァイト」主宰・「屋根」)
あらあらと誰が摘みきたる夏花かな
茄子の花如露にぽつりと落ちにけり
舟もなき海の見えたるライラック



依光陽子 (「クンツァイト」「クプラス」「屋根」)
霾風や長啼く鳥は未だ空に
翼あるものへ靡きし茅花かな
八重桜落つるかばんに風が入る





2016年7月22日金曜日

平成二十八年春興帖番外卒業帖   坂間恒子



        坂間恒子
教室に風のあつまる卒業期
農場に林檎の苗木卒業す
繃帯がちらつく  遺影卒業す

平成二十八年花鳥篇 第七 (堺谷真人・中西夕紀・仙田洋子・五島高資・渡邉美保)



堺谷真人
開きゝる仁王の指や初燕
七色に爪を塗り分け養花天
風光る少年院の出口かな
卯の花腐し銅の喉ごぼと鳴り
ゆれやまぬ国に生まれて顔佳鳥
黒揚羽風に起伏のあるごとし
釈迦牟尼の肩の厚さよ更衣



中西夕紀
板を摩る涼しき音に美僧来る
裸子の遠見なれども女の子
花椎に夜の電車の波打てり
不死男忌の隅から埋まるカウンター



仙田洋子
緑蔭にそろそろ友の来る頃か
日傘さすスーラのひとと連れ立ちぬ
白南風や部室の窓を開け放ち
ロブ高く上がり青水無月の空
若きらの太鼓ひびけり青葉山
キャンパスの隣に墓地や油照
金環蝕蝮隠れてゐたる谷



五島高資
手の甲に掌を置く朧かな
み空よりしだれ桜のさくなだり
藤垂れて粒立つ海の底ひかな
うつせみへ通ふ風あり薪能
石南花の咲く紫の雲路かな



渡邉美保
潮風を受け夕日受け椿山
鳥のこゑ聞き分けてゐるよなぐもり
野遊びの袋に鍵を探りおり





2016年7月15日金曜日

平成二十八年花鳥篇 第六 (望月士郎・内村恭子・木村オサム・ふけとしこ・仲寒蟬)




望月士郎 (「海程」所属)
春はこつんと卵の黄身に映る窓
鶴帰り折り跡のある紙一枚
朝が来るだれかのからだから桜
湯舟より顔の出ている花の夜
花過ぎの白衣の胸にうすく染み



内村恭子 (天為同人)
やはらかに蕗生ひそむる沢の風
ぽんと蓮開きてよりの朝ご飯
薔薇の園月の出づればまた香り
野を濡らし木椅子を濡らし夏の雨
杏子実れば母の手のあたたかさ



木村オサム(「玄鳥」)
ひまわりを出られず作り笑いでは
罰として尺蠖虫がやって来る
ベネチアに腹違いの兄金魚玉
プラトニックラブの数だけ蛍舞ふ
寂しくて一番長い蛇を引く



ふけとしこ
遠巻きにされてゐる猿松の芯
十薬や道の分かれてまた合うて
雨の日の巣をととのへて鳰



仲寒蟬
 雲飛んで辛夷の空となりにけり
子を叱る女の前を二頭の蝶
雁風呂にほの暗き月昇りけり
黒靴に踏み散らされて飛花落花
天神の細道若葉雨しとど
近づけば増えてゆくなりかきつばた
この蠅と夫婦であつたかもしれぬ

2016年7月8日金曜日

平成二十八年花鳥篇 第五 (小野裕三・小沢麻結・網野月を・青木百舌鳥・山本敏倖)



小野裕三 (海程・豆の木)
勇気その他ぜんぶ並べて山滴る
赦されるように芒種の瞳集う
風の身体持ち試着室を覗く夏



小沢麻結
言ひさして唇思案チューリップ
紫陽花は水色恋は修羅場色
美央柳蘂の深きに蟻捕へ



網野月を
ウルトラマン好きの私は梅雨生れ
梅雨生れテレビは夢の箱だった
自転車に乗れたあの日の梅雨生れ
背番号28なり梅雨生れ
梅雨生れ安い方から二番目を
恋人よ梅雨に晴れ間の日曜日
やこまんの輸血を繰りて梅雨の冷え



青木百舌鳥
暗闇の水面にとまる落花かな
やがて目を逸らしうららか我と鹿
双眼鏡霾る町の何処か見え
一鉢に満ちしレタスを搔き初むる
水路とはなれど清水の拍子かな




山本敏倖 (豈・山河)
大根の花より貰うシノプシス
輪郭は菜の花月夜あるでんて
半ドアの螢補聴器濡れている
紫陽花や横笛の音の首実検
水中花事実の本籍見ています





2016年7月1日金曜日

平成二十八年花鳥篇 第四 (陽 美保子・曾根 毅・前北かおる)



陽 美保子(「泉」同人)
水差しに水のしづもり初桜
仙骨を立てて座つて朝桜
夕桜硝子の中に本古りて




曾根 毅
生のはじめの暗きに生まる桜かな
生の途中のくらきに触るる桜かな
生のおわりの昏きに死ぬる桜かな




前北かおる(夏潮)
さらはれし帽子ころがる干潟かな
子に何か訴へられてサングラス
時きたり汐干狩場を開放す