2016年3月25日金曜日

平成二十八年春興帖 第二( 曾根 毅・木村オサム・渡邉美保)



曾根 毅(「LOTUS」同人)
澄みきっている春水の傷口めく
竹林を来て春昼となっており
いのちまだ生臭くありつばくらめ




木村オサム(「玄鳥」)
曼荼羅の押し寄せてくる雪解川
啓蟄や黙って頬を差し出しぬ
透明な蝶の飛び交う試着室
春雷や向う三軒印度人
泳げないのに朧夜に駆り出さる



渡邉美保
春一番きのふのままに木のベンチ
ドーナツのやうな木の瘤風光る
満天星の芽だちに触るる手の冷た
雉鳩の羽根片びらき雛荒し
笑ふやうな鳥の鳴き声抱卵期


2016年3月18日金曜日

平成二十八年春興帖 第一 (仙田洋子・仲田陽子・杉山久子)




仙田洋子
とほくまで車かがやく梅見月
梅林や地べたに坐ることのよき
鳥影の日ごとに増ゆる梅の花
夢の中まで白梅のびつしりと
白梅に抱かれつめたくなつてきし
ほんのりと酔ひ紅梅のつもりなる
母と子と坐る地べたや梅の花



仲田陽子
花辛夷薄目を開けて眠りたる
蜜を吸う鳥の瞼や梅三分
筆先は囀りを聞き分けている
メビウスの輪から出られずシクラメン
養花天枕の中は白き羽根




杉山久子 
桜湯に透きてかさなる花のいろ
春の日に鸚鵡返しの人とゐる
足跡のとぎれしところ春の海

平成二十八年歳旦帖 第八(北川美美・中西夕紀・筑紫磐井)




北川美美
蒼空にときどき見える凧の糸
風の町へと馬に乗るサル
新巻の巻かれし縄を巻き戻す



中西夕紀
冬欅沈みたる日の余光受く
この部屋の句会に虚子や寒雀
福相にならんがためのちやんちやんこ



筑紫磐井
生鮮が出回る四日夕みぞれ
「山本周五郎商店」が七草粥
歌留多会果てたる夜や妻の家出
多忙なる事歳末の我の如し



2016年3月4日金曜日

平成二十八年歳旦帖 第七 (真矢ひろみ・小沢麻結・水岩瞳・西村麒麟)




真矢ひろみ
身の内の黒馬駆ける恵方道
骨正月ことに鎖骨の美しきひと
遁世や浮き世のことは初夢に



小沢麻結
三人の誰もピンボケ初写真
言ひたいこと言へる魔法よ寒紅は
初天神絵馬に生徒の名を連ね

                      
水岩瞳
屠蘇好きの昭和は遠くなりにけり
クレヨンの重ね七色初画帳
気短にせねば吉なり初御籤



西村麒麟
一室になまはげ二人ゐて近し
なまはげは顔が動いてゐる如し
なまはげや柱に白き気が満ちて