2016年11月25日金曜日

平成二十八年 合併夏・秋興帖 第十二 (中西夕紀・陽 美保子・渕上信子・水岩 瞳)



中西夕紀
悪霊になるにも位夕茅萱
異国にて二胡弾く人よ流れ星
船の灯やしばらく霧を胸に抱き



陽 美保子(泉)
夏深し水底の日は月に似て
蟬しぐれ石山の石老いにけり
台風の去りたる鷺の声にごる
幣に裁つ白紙一束豊の秋



渕上信子
氷川丸霧の記憶の引揚者
外は霧ロビーの時計スケルトン
霧襖何か大事なこと言はれ



水岩 瞳
浄蓮の滝を見送るサリーかな
緑蔭のトルストイ足で押す乳母車
芭蕉庵八百屋お七の愛に失す
砂糖きび噛めば与那国トング田
遺憾なるテレビ番組寒露かな
細くとも秋刀魚食べねば始まらず
映画ならここでジ・エンド秋時雨


2016年11月18日金曜日

平成二十八年 合併夏・秋興帖 第十一 (松下カロ・もてきまり・内村恭子・坂間恒子)




松下カロ
うつとりと水へ入るなり秋の蛇
疵ありて香る檸檬もたましひも
鳩の羽 人形の首 夕花野
黄落のたびに柩は透きとほる
うつとりと菊の花びら酢に沈み



もてきまり
十月知的孟宗竹と無知アタシ
身のうちの既知くだくべく柘榴割る
無意識のコスモス畑俺を責む



内村恭子 (天為同人)
高野槇高々とある墓所の秋
廻廊を四角く巡る鱗雲
曼荼羅に清盛の血や秋暑し
肉でなき肉の美味なる十三夜
虫すだく仏像半眼で眠り



坂間恒子
ひょっとして白曼珠沙華本籍地
泥濘の白刃櫓雨後の羊歯
感情の毀れそうなり鶏頭花






2016年11月11日金曜日

平成二十八年 合併夏・秋興帖 第十 (下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)



下坂速穂(「クンツァイト」「屋根」)
詩に痩せることなくけふの秋風に
目明しの老いて灯下に親しめる
草草の手に触れたがる子規忌かな




岬光世 (「クンツァイト」「翡翠」)
さしあたりゑのころ草に逃げ込みぬ
居留地や黄落といふ懺悔室
夜の水に茎のしたたか破蓮




依光正樹 (「クンツァイト」主宰・「屋根」)
人出でて露けき朝と思ひけり
もの言ひて少しく間あり蝶の秋
鬼灯や子守女が吹くかの音も




依光陽子 (「クンツァイト」「クプラス」「屋根」)
秋蒔や昼過ぎの部屋背負ひたる
先んじて枯れゆく花も秋の花
風景が蝶のみこんで秋深む




2016年11月4日金曜日

平成二十八年 合併夏・秋興帖 第九  堀本吟



堀本 吟
 
夏港あくびおおきく猫娘
白雨や走るおとうとといもうとが
水引の花ぶつぶつと亡父が呼ぶ
名月や古刹の庭にパイプ椅子
ふたつなき命澄みたる月夜かな
明けの夢火をつかみたし手づかむる
引きこもり津波退くとき汝れも逝きし
せつじつにもの頼むことあらばこそ
釣舟草とおいところに咲いている
釣舟草見えずなくなる目をこらす
めつむると見えずなりけり釣舟草
釣舟草妖しの水辺荒るるまま
おもてなしこのひと怪しなんでも食う