2017年1月13日金曜日

平成二十八年 冬興帖 第四 (夏木久・関根誠子・池田澄子・仲寒蟬・青木百舌鳥・坂間恒子・中村猛虎)





夏木久
君は言ふ「あの時もこんな月だった」と
案山子叫ぶみんなが傘を指してゐる
花野柄ウラを返せば大枯野
原因は工事現場の隙間風
冬の蝶茶托使ふか使はぬか
難民がゐて路地裏に猫がゐて
思ひ出はモノクロームでも夢はカラー




関根誠子
ライ麦畑にだあれもゐない小春風
中央分離帯の若木も落葉時
遺伝子非組替豆乳着膨れて
捨て頃を過ぎたる木偶と棚が冬
鏡に映す逆さ睫毛や開戦日
内蔵助に合はす泣き真似年用意




池田澄子
かろがろと傾き枯れの葦よ光るな
人類に玄関の戸の結露あり
オムレツと隣る冬菜と光の中
遠くから来てくださった髪に雪
何鳥か此処よ此処よと春隣




仲寒蟬
冷やかに判捺すことも仕事のうち
増毛剤そこそこ売れて神の留守
綿虫に全速力といふことあり
いつもいつも南を向いてゐる北風
風花に草原の香の混じりをり
刃を入れて目覚めさせたる冬林檎
星雲を連れて白鳥来たりけり





青木百舌鳥 
雪曇り遠山が無くなにか無く
大綿の綿を曳きゆく虫小さ
船降りて冬の日向にすこし揺れ
岬山の木々を透かせて初明り




坂間恒子
鵙高音思考の断片染色す
冬の鳥ふたつの島の目配せす
柩出るとき皇帝ダリアに風







中村猛虎(なかむらたけとら)1961年兵庫県生まれ。「姫路風羅堂第12世」現代俳句協会会員。
妹が冬眠用の穴を掘る
クリスマスヒトの背骨の彎曲す
掃除機の掃除している小春かな
時雨るや机で削る頭蓋骨
冬すみれ死にたくなったらロイヤルホスト
除夜の鐘合間に離婚届書く

小春日や退屈そうなふくらはぎ