2017年2月3日金曜日

平成二十八年 冬興帖 第七 (加藤知子・真矢ひろみ・小沢麻結・内村恭子・水岩瞳・坂間恒子・羽村美和子)



加藤知子
一月号のペンギン呼ばれ表紙顔
ぐるぐると猪はクール宅急便でくる
肉塊と猪と冬晴れのなか歩く
冬の血のしたたり同じ太陽の下
冬林の夜の誠実ひざを抱え
次々にビリー・ジョエルを聴く冬の夜のむかし



真矢ひろみ
冬銀河不思議の夜のありどころ
煮つめれば人魚は蒼く枯木立
ガン病棟へ寒一灯の力かな
灯は遠く鬼火か終の団欒か
今生を時給換算海鼠かな



小沢麻結
指先のその先意識スケーター
羽田便追つて雲間へ雪女
傷痕のなかなか消えず鎌鼬




内村恭子  (天為同人)
数へ日の故郷までの道遥か
冬の地震村の教会まで壊れ
衛星は軌道を外れオリオンへ
地吹雪や空港閉鎖されしまま
国境の凍てし鉄条網越えて




水岩瞳
何だつて知らぬが花のおでんかな
敏雄の方が狂つていたかも昼の火事
 (島尾敏雄)
玉子酒啜り尊し母の恩



坂間恒子
鵙高音思考の断片染色す
冬の鳥ふたつの島の目配せす
柩でるとき皇帝ダリアに風




羽村 美和子 (「豈」「WA」「連衆」)
陸棚に遺跡あるらし雪しんしん
月光がさざなみになる黃落期
ポインセチア眩しい顔を遠巻きに
盛装のモンローウォーク聖樹星
裏切りの顔をちらりと花泊夫藍
狐火のところどころをLED
スーパームーン獣の息となっている