2017年5月19日金曜日

平成二十九年 春興帖 第五(内村恭子・仲寒蟬・松下カロ・川嶋健佑)



内村恭子
浅春や眉をきりりと狐絵馬
白梅や蕾は清らなる緑
春浅き三条に買ふ酸茎かな
春温し人寄れば鯉泳ぎ出す
白梅や根付に千の物語
浅春や京の深きに鹿ヶ谷
春昼や蛇腹で閉ぢるエレベーター



仲寒蟬
啓蟄のはちきれさうな餃子かな
その中の一人は刺客花衣
一ヶ所に○春宵の解剖図
ファックスの紙の丸まる仏生会
深海生物大図鑑へと菜飯こぼす
春水の濁るとはよみがへること
馬を見かけず春昼の競馬場



松下カロ
きさらぎの青年をまた見失ふ
責め具とも春の回転扉とも
百人の男うつむく鳥帰る



川嶋健佑(船団 鯱の会 つくえの部屋)
駅舎傾いて新生活はだるい
春風が吹いても今日は家にいる
蛍光灯割れてきらきら風光る
言い訳をまず言ってみる石鹸玉
愚痴ってもいい春霖の傘の下