2017年7月14日金曜日

平成二十九年 花鳥篇 第三(池田澄子・堀本 吟・山本敏倖・岸本尚毅・夏木久・中西夕紀・渕上信子)



池田澄子
しあわせやミモザに空の深ければ
欠席が一人も居ない桐の花
五月ゆく付箋の色を使い分け
阿部定も初夏の夜風にあぁと云ったか
御代わりや欅若葉の見える席
嬉しいか心細いか揚雲雀
原始女性は夏の太陽光疲れ


堀本 吟
六・一五樺美智子が死にました
密談のはし季語がないけむり茸
閣僚のトップてだあれ黴の花


山本敏倖(山河代表・豈)
夏蝶をりくるーとする三角紙
くちなわの眼より一山落ちにけり
六月のまじっくみらーにあるしこり
泳げど泳げど人間を出られない
古事記から紙魚の出てくる手暗がり


岸本尚毅
春の灯はざらつく壁を照らすなり
日あるを見て森閑と春深し
藤の蔓花ぶら下げて風に高く
柏餅貴男のやうにベタベタと
老いて棲む人々躑躅咲く町に
豆の花咲き老人に曜日なし
夜は楽し胡麻粒ほどの守宮の眼

【紹介文・近況】
一九六一年生。「天為」「秀」同人。


夏木久
滑舌は山笑ふほど躓けり
真青野へ今日も言葉を放牧す
春ゆくや夏を横取りしてしまひ
筒抜けの現のことを抜け抜けと
花火揚ぐ昼の酒屋の暗がりへ
白鱚の衣の破れ気にかかる
阿と吽の隙へ蛍を神妙に


中西夕紀
沈めあるペットボトルや子供の日
肩口にのぞくタトゥーや瀧飛沫
ぺらぺらもざらざらも紙夏蝶過ぐ
額てかる撞球場の夏灯

【紹介文・近況】
略歴 昭和28年、東京生れ。昭和56年作句開始。「岳」「鷹」「晨」を経て、平成20年「都市」創刊主宰。句集「都市」「さねさし」「朝涼」共著「相馬遷子ー佐久の星」
俳句は今では生活の一部になっている。だから惰性にならないよう、マンネリにならないよう、良い環境を作ることが大切と思う。それは、田畑の土壌作りに似ている。良い作物(俳句、文章)を作るために、何をするべきか常に考えている。しかし、あれこれやって、みな途中といった感じである。


渕上信子
銀器を磨く卯の花腐し
遺言のごと薔薇開く朝
蜚蠊団子「元祖!半なま」
無賃乗車に成功の汗
エリカ・ジョングと同じ香水
誤植の酷さメメ水母ほど
熱帯夜豚の耳噛んでる