2017年10月13日金曜日

平成二十九年 夏興帖 第七(田中葉月・近江文代・飯田冬眞・中村猛虎・小沢麻結・水岩 瞳)



田中葉月
ぼうたんの花片の中へ身投げする
かくれんぼ見つけて欲しい蛇苺
深山の独り芝居をホトトギス
初夏の小さな銀貨のものがたり
虹生まるわが体内の自由席


近江文代
手招きの先の静かな夏の山
ハンカチを載せて秘密のひざがしら
遠雷や保育施設の鉄格子
ポンポンダリア既婚者に帰る家
指白く入って空蟬の背中


飯田冬眞
初鰹骨折の日の食卓に
金魚玉のぞけば赤の溢れ出す
涼やかな風を貯(たくは)へ人造湖
草いきれムーミン谷は封鎖中
青梅線あくび残して夏終はる


中村猛虎
空蝉の中で未熟児泣き続く
短夜や妊娠中のラブドール
鬼灯を鳴らす子宮のない女
屍に向日葵の種を撃ち込む
飛蝗跳ばずに泣く女を見ている
凹凸の多き裸身に稲光
油照り我が娘を誘拐してみるか


小沢麻結
鉾建や京の時間軸無限
星涼し時折幹を打つは何
宿下駄を親しく鳴らし洗ひ髪


水岩 瞳
外股の若きイエスよ青嵐
少年蹴り込む憧れの青き芝
母逝けりマリアの月にしづやかに
花も葉も鬩ぎ合ひして夕夏野
蠅払ひ払つて啜るチキンフォー