2017年10月20日金曜日

平成二十九年 夏興帖 第八(北川美美・山本敏倖・佐藤りえ・筑紫磐井・網野月を・池田澄子)



北川美美
透きとほる氷やはらか緑の夜
八月のながき汀(みぎわ)をひたあるく
飴色に眠るしかなし蝉の殻


山本敏倖
  ポンチ絵
炎帝のポンチ絵とてもイ音便
聖戦やどくだみの香と細菌と
夕立に裏おもてある西銀座
あめんぼうついに立つことなかりけり
海月が来るまでバスは平方根


佐藤りえ
ミルクティーミルクプリンに混ぜて夏
茄子持つて地震速報見てゐたる
 Voyager1 Voyager2 讃
1号を追つて2号も別銀河
うるはしき地球忘れてしまひけり


筑紫磐井
圏外に妻の秘中の秘の避暑行
倒錯の意識がくづれ明け易し
水だけで生きる覚悟の老人たち


網野月を
免許証に別人の顔道おしえ
ボルダリングすれば守宮の心かな
GよG来世はきっとカブトムシ
空色の海海色の空夏一つ
土用鰻火災報知器点いたまま
夏果てて掴む乳房に故郷を
板襖越しの人声麦こがし


池田澄子
藻の花や愛は水溶性ならん
台風一過骨付き肉がとろ火の上
階段で家人に会いぬ遠花火
宵まつり彼の世のものを混ぜて吊り
君が代という代ありけり夜這星