2018年12月28日金曜日

平成三十年 秋興帖 第十(五島高資・青木百舌鳥・池田澄子・真矢ひろみ・井口時男・筑紫磐井)



五島高資
未完なる防潮堤や蚯蚓鳴く
登高や研修医指導研修会
日は海に面影の立つ出水かな
爪先にふれる水面や紅葉狩
石を積む月の光となりにけり


青木百舌鳥
ががいももあざみも絮の輝かし
秋灯の光背を負ひ陰を負ひ
寺町や寺にありたる紅の菊


池田澄子
古ぶなり風の花野のベンチと我
あの人に触れし風なれ十三夜
秋風や嗚呼とゆるんでゆく眉根
月天心さびしいひとよ落ちてくるな
濁り酒ゆすり未だに干さぬ奴


真矢ひろみ
黄落を川面に映し此岸とす
暁闇の漆紅葉の高貴かな
更けるほど天心ずらす紅葉径
ただ狂へ白膠木紅葉の囃しをり
影もたぬ帚木紅葉ありにけり


井口時男
道化の秋
道化師のはらわたよぢれ柘榴裂け
月に笑ふピエロ0(ゼロ)を累乗し
天高くアルレッキーノの宙返り
台風の眼に与太郎が舞ひ踊る
紅葉狩往きて還らぬ太郎冠者
月青く猪突の騎士に憂ひあり
秋風や王の道化の綱渡り


筑紫磐井
水と日の沸る露をく兜太の里
盆さまざまこの世に生れぬ魂も
  幸彦・義幸
十月の忌日重ねて我ら老ゆ

2018年12月21日金曜日

平成三十年 秋興帖 第九(小沢麻結・西村麒麟・大関のどか・水岩瞳)



小沢麻結
爽やかや火を吹きさうなビーフカレー
マスカット買ふ築地市場最終日
少しなら平気秋刀魚の腸旨し


西村麒麟
秋風を見てゐるやうな魚の目
くるくると回りて弱し草相撲
多摩川で火を焚いてゐるハロウィーン


大関のどか
ナイトサファリの犀犇めくや稲光
乗り出して口で迎える新走
柘榴割れ奇人の愛の真つしぐら


水岩瞳
湖の掬へぬあをさ蛇笏の忌
追伸へ深く秋思のまぎれ込む
秋灯下古典にはずれなかりけり
藁塚の背負つていたる落暉かな
道半ばされど我継ぐ秋の空

2018年12月14日金曜日

平成三十年 秋興帖 第八(依光正樹・依光陽子・浅沼 璞・佐藤りえ)



依光正樹(「クンツァイト」主宰)
川澄むと町に木賊を刈り収め
蜆蝶止まつて花になりたるか
川の近くに草が生え菊日和
よく晴れて綿取る日和あとわづか


依光陽子(「クンツァイト」)
秋扇を取り出だしたる径かな
澄む秋の胡桃の真下までは行く
残る虫ほどの荒びも松になし
いつも何か弾けて冬はすぐそこに


浅沼 璞
秋霖をふり返りたり鬼の面
樋傾ぐざざと濁れる野分晴
甘食のてつぺんかける野分後
キスチョコのつかみどころもなき秋思
胸焼けのソファーに沈む昼の虫
さんま三つ四つにきられて胴長よ
気をつけの姿勢つかのま天高し


佐藤りえ
秋冷のコットンシャツのくたくたに
バイト来て畳んでおりぬ海の家
台風来むねにラジオをつけさせて
狛犬の犬居にたふれゐたりけり

2018年12月7日金曜日

平成三十年 秋興帖 第七(飯田冬眞・望月士郎・中村猛虎・下坂速穂・岬光世)



飯田冬眞
眉寄せて銭の穴みる星月夜
鮭小屋の遠き海鳴り賽を振る
殉教の火を知る島の踊唄
むらさきは放浪の色葛の花
指回すとんぼの首の落つるまで
いつまでも指を折る癖鶏頭花
死ぬときは奥歯噛みしめ富有柿


望月士郎
投函の小鳥の名前をもう一度
忘却の日時計として案山子立つ
萩こぼれ文学館に死後の私語
銀漢や少女回転体となる
爪を切る音して月光のトルソー
秋思四角ときおり月の内接す
林檎剥くしずかに南回帰線


中村猛虎
棺桶の小窓の中の鰯雲
右利きの案山子が圧倒的多数
省略の効き過ぎている秋の水
桃を剥く背中にたくさんの釦
月天心胎児は逆さまに眠る
三合を過ぎて秋思の丸くなる
秋燕やシャッター商店街にTENGA


下坂速穂(「クンツァイト」「秀」)
水澄みて亡くしたる鳥数知れず
どの色も揃へし羽の花野かな
舟と舟さ揺らぐ後の更衣


岬光世(「クンツァイト」「翡翠」)
大鈴の古び小鈴のまろぶ秋
剃髪のこころや白き曼殊沙華
秋の木を降りて賢き雀かな

2018年11月30日金曜日

平成三十年 秋興帖 第六(北川美美・花尻万博・神谷 波・家登みろく)



北川美美
地球儀を回す占い天の川
天の川はるか遠くの破裂音
舟底に当たる星屑天の川


花尻万博
猟犬を煙に包む拍子かな
コスモスの喜びは固まつてこそ
新米の音にプログレあはれなり
木の国や飯屋飯屋に山紅葉
驚きの次々緩む鰯かな
木枯しと不意の電話繋がつてゐる


神谷 波
蛇のしばし息んでゐる花野
ハート形顔の土偶よこんにちは
台風一過元気にアサギマダラ
秋麗のアサギマダラをひとりじめ


家登みろく
コスモスやてんでに揺れて総揺れに
猫ごとに違ふ鈴の音秋澄めり
もろこしの粒のじぐざぐ輝ける
月さやか誰とも会はぬ一日に
昭和の熱平成の寒気草の花

2018年11月23日金曜日

平成三十年 秋興帖 第五(田中葉月・網野月を・堀本吟・前北かおる・乾 草川)



田中葉月
音楽室くるり出て行く処暑の猫
この秋思約分すればオンザロック
水底に火の匂ひ秋の響灘
陽気すぎる空につまづく鰯雲
桔梗の方向おんちヒトオンチ


網野月を
小春日や間延びしている踏切音
陽の赤い家族日和の大花野
目を閉じ深く吸う白い風日和
中庭の子らの歓声そぞろ寒
もも売りの達筆一函參千円
三十年年上女房の冬帽子
蛇笏忌や虫歯のいない甲斐の国


堀本吟
ツユクサ
立秋や底から濁る湖の水
石像を胡散臭しと鰯雲
秋風裡さらさらとヘアアーチスト


前北かおる(夏潮)
新米の担ぎこまれし三和土かな
コンバイン操る写真今年米
箸置に箸を揃へて今年米


乾 草川
星光を蔵して桃の眠りゆく
鉦叩前頭葉を酒が攻む
笑ひつつ花野を神は発つだらう
抽斗に流星飼ふてゐる歩荷
新藁の香が境界父の国
ショパン火に焼べては秋のビールかな
釣瓶落し翁恋ひしと石の哭く

2018年11月16日金曜日

平成三十年 秋興帖 第四(坂間恒子・林雅樹・渕上信子・渡邉美保・小野裕三)



坂間恒子
マリー・アントワネット立ちたる鶏頭花
マリリン・モンローのくちびる牽牛花
秋冷のダリア素戔嗚尊かな


林雅樹
柘榴実るバス終点の住宅地
捕へたる蜻蛉や己が尻を噛み
秋桜や獣医学科の庭に犬
金髪の菊人形やじつは死体
肛門に杭突つこまれ案山子にされ


渕上信子
おかしくなつてゆく鰯雲
英語で自慢秋の富士山
塵置場まんじゆさげ満開
団栗よりも薬ころころ
黄落きれい句碑の句は駄句
腰掛けるには茸小さし
霧の匂ひをまとひ「ただいま・・・」


渡邉美保
ひやひやと医師に耳奥照らされて
きつねのかみそり傍らに案山子立つ
お地蔵の紅塗り直す十三夜


小野裕三
蟋蟀の夜の力で鳴きにけり
諦めた色ありそうな曼珠沙華
勇ましき声も混じって赤い羽根
秋晴れに大きく立ちて修理工
蚤の市に漫画全巻鳥渡る

2018年11月9日金曜日

平成三十年 秋興帖 第三(山本敏倖・ふけとしこ・夏木久・曾根毅・小林かんな)



山本敏倖
菊日和客の一人をもてあます
細戈千足国(くわほこのちだるくに)なり秋二日
鳥兜この能面はゆるいと見る
いにしえの剣の舞や蔦紅葉
晩年や紅葉の夜を腑分けする


ふけとしこ
畦に立つ長き腕組み秋の蝶
草虱あの山も名を持つはずよ
花布を銀鼠色に後の月


夏木 久
長い夜を殴り倒して遮断機降ろす
秋灯を点けてこの街抉じ開けり
安易にも葱をばら撒く会議室
鯖缶開け空缶にして秋の海へ
高圧的な客の居座る電気店
立秋や更地の隅に病める雲
星宿を探し疲れて破芭蕉


曾根 毅
鬼灯の内に骨やら髪の毛やら
破蓮神仏もまた破れたり
軌道から逸れし蜻蛉は匂うなり


小林かんな
秋澄めり32個のスープ缶
龍淵に沈みぬ愛はゴミ箱に
東京の鋼の蜘蛛へ毛糸編む
秋夕焼絵筆を放す象の鼻
月明り恋人の顔描き直す

2018年11月2日金曜日

平成三十年 秋興帖 第二(大井恒行・辻村麻乃・仲寒蟬・木村オサム)



大井恒行
攝津忌の褪せぬは赤き水木の実
夜の柿朝の柿目に見えてけり
捨聖ついに参らず父母の墓


辻村麻乃
呪ひ
芒から金髪美女の現るる
補陀落を要らぬと言ひし野菊かな
呪ひたる脚から揃ふ星月夜
列車いま見知らぬ秋を通過せり
秋耕を過ぎた辺りの日暮かな
秋雨でびしょ濡れグランドに少年
一心に窓拭く女秋曇


仲寒蟬
貧血の足を引き抜く残暑かな
馬追の鳴かぬといふはすなはち死
天体のにほひをさせて草の絮
二つある腎臓さびし秋の水
麓から順に灯ともす葛の村
雨月なり尻を豊かに畑のもの
横丁に仏師棲みけり雁来紅


木村オサム
トルソーに頭の生える大花野
桃を食ふ遠き波音聴くために
ひもすがら案山子になって過ごす会
ルービックキューブピカソが林檎描いたなら
前世との軽い約束烏瓜

2018年10月26日金曜日

平成三十年 秋興帖 第一(松下カロ・仙田洋子・杉山久子・岸本尚毅)



松下カロ
身体へ戻つて行つた秋の海月
遠紅葉 絹のシーツに頬ふれて
ゐのこづち背中につけて帰しけり


仙田洋子
ぎんなんの臭ひいきなり小石川
秋の草足入れて足濡らしをり
どこまでも続く塀なり秋曇
秋の蝶眠るごと翅閉ぢにけり
秋の蝶翅を閉ぢては傾きぬ
秋陰やヒマラヤ杉にもたれゐて
けら鳴くや月命日のまた来たる


杉山久子
玉子ゆがいて台風の目は愉し
スナック道草西日射し放題
満ちてゆく月の水音に耳すます


岸本尚毅
薄明は薄暮に似たり葛嵐
土色の無数の飛蝗壁を這ひ
口論か劇の稽古か秋の暮
長き柄に八手の葉あり秋の暮
草の花健康ランド廃屋に
夢の如野菊あつたりなかつたり
空ずつと続くが見ゆる秋の風

2018年10月19日金曜日

平成三十年 夏興帖 第十(望月士郎・五島高資・佐藤りえ・筑紫磐井)



望月士郎
蛍をつまむ指先から弥勒
棺を運ぶ内の一人は蟹を見る
金銭感覚サボテンの花咲いた
空蝉をつまむ異郷につままれる
死後のこと背泳で見た昼の月
描かれてヨットは白い過去となる
写真みなやさしい死体砂日傘


五島高資
岩肌の流れ出してや夏の蝶
年輪に墓碑に出水の刻まるる
滝壺に掬ひて仰ぐ朝日かな
河と川出会ひて滾つ青楓
日は海に面影の立つ出水かな


佐藤りえ
飴ちやんが貰へる賽の河原なら
欲望に服を着せても透けてゐる
膃肭臍蛸擲てる土用波
一艘の小舟を待ちて一輪廻
三姉妹仲良いこともメモつとこ


筑紫磐井
雷鳴豪雨おほへる楷の大樹かな
三越や昔ありにし花氷
七時より開演夏のスタアたち

2018年10月12日金曜日

平成三十年 夏興帖 第九(中村猛虎・仲寒蟬・ふけとしこ・水岩瞳・花尻万博)



中村猛虎
子宮摘出かざぐるまは回らない
星涼し臓器は左右非対称
ビックバン宇宙が紫陽花だった頃
初盆や萬年筆の重くなる
早逝の残像として熱帯魚
亡き人の香水廃番となりぬ
古団扇定年の日のふぐり垂れ


仲寒蟬
立てばすぐ谷底見えて簟
えごの花体育館に風通す
払つても払つてもまた火取虫
一本の滝白雲をつらぬきぬ
滴りに押され滴り落ちにけり
不審車に不審者が乗る日の盛
柘榴咲く多産の村の洗濯場


ふけとしこ
飛石へ足置くときを糸とんぼ
水亭に人影白きさるすべり
夏の月くさかんむりを戦がせて


水岩瞳
八月や残したものは絵一枚
風死せり絵筆の声を今に聴く
涼風のオール沖縄のこころかな
ただ灼けて有刺鉄線続きをり
忘れたらかはいさうやさ夏の丘


花尻万博
木の国やどの青蔦も町を出て
さよならの縁(えにし)集まる茂かな
すすり泣くくちなはとして頂きぬ
一等星届かぬ距離の海月なり
街眩し少女らは立葵ほど
青簾水消ゆるまで揺れるかな

2018年10月5日金曜日

平成三十年 夏興帖 第八(小沢麻結・椿屋実梛・林雅樹・池田澄子・浅沼 璞)



小沢麻結
鰻重待つ仕事鞄を傍らに
南風微睡みてなほ日は高き
三四郎こゝろ読み継ぐ日焼して


椿屋実梛
座禅後の脚のしびれやばつたんこ
十薬はいつも寂びたる闇背負ふ
妖精が扇をひらき合歓の花
陰に咲き夕日のちから花岩菲


林雅樹(澤)
空蝉を集めてひとり遊びかな
窓枠を担ひ人行く西日中
江戸つ子の意気ぞ蚯蚓の踊り食ひ
啄木忌書庫の机の灯せる
新緑の樹海に入りて戻らざる


池田澄子
暑し「硫黄島」をGoogleで検索中
風鈴の窓や開けたり細めたり
水饅頭亡き先生を自慢して
幸せそう苧殻の中に居る煙
寝たあとの耳を慕いてアナタは蚊


浅沼 璞
畳の目こすりこすりて青大将
寝返りのSの字蛇とふれてゐる
雑草の蛇をすすつてゐるところ

2018年9月28日金曜日

平成三十年 夏興帖 第七(木村オサム・のどか・真矢ひろみ・前北かおる・堀本 吟)



木村オサム
夏帽を振りて夏帽呼びにけり
    日盛りやブロンズ像の乳の張り
子どもより木登り巧し夏休み
次の世へ生まれそこねて海月浮く
夏痩せの男全員島流し


のどか
アスファルトに燃え尽きてゆく終の蟬
懐妊の土偶色づきそむる桃
色つきの夢消えかけて西瓜食む
歳月の翡翠色なる羽化の蟬
反骨の捩れ重ねてたうがらし


真矢ひろみ
夜濯ぐアラフォー単孤無頼たる
白玉の歪み好きなる不惑かな
逃げきって間のおきどころ夕端居
尿の切れ良くて深山に象がゐる
夏帽は深し繊毛縛しけり


前北かおる(夏潮)
似合ふ気がしてきて髪にプルメリア
日盛や首長竜が椰子になり
踊唄ひくし瓢を打ち鳴らす
祝詞あげフラ奉る合歓の花
花合歓や夜空の下のレストラン
ジャグジーにホームシックの夜の秋
虹の島傘をひらけば雨あがり


堀本 吟
友来たりその友も来て汗まみれ
有刺鉄線灼ける理想の一捻り
冷麦や君たち品を培えよ

2018年9月21日金曜日

平成三十年 夏興帖 第六(下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・渕上信子)



下坂速穂(「クンツァイト」「秀」)
箱庭に水の音憑く夕かな
本の中に栞の痕や夏館
あふられて白し日傘もその人も


岬光世(「クンツァイト」「翡翠」)
かき氷運ぶ両手や指立てて
炎天の雀と跳ねて清め水
夏蝶や人形供養ふぐ供養


依光正樹 (「クンツァイト」主宰)
売本の見本を置きし日除かな
日覆や窓に緑の湧くごとく
寺町を行きては戻り日傘かな
大ぶりにしてあをあをと汗拭


依光陽子(「クンツァイト」)
白百合の老女はしやいでゐて眠る
むかしから住んで木の枝払ひけり
唖蟬も鳥声を聴きゐたりしか
作り雨降り始めてふ音のまま


渕上信子
歯ブラシ銜へ薔薇ボンジュール
ドレスアップのアッパッパめく
蚊を打たせれば空振ばかり
恩師を憶ふ尾花のうなぎ
鬼灯のはな白くあたらし
星開く夜の蟬のあふむけ
敗戦忌とは我が解放日

2018年9月14日金曜日

平成三十年 夏興帖 第五(青木百舌鳥・早瀬恵子・坂間恒子・近江文代・北川美美)



青木百舌鳥(夏潮)
夏木立右へ左へフリスビー
軽鴨の潜りては背に水わたす
三ツ編が似合ひほほづき市の婆
すくひたる手鉢の金魚かたよれり


早瀬恵子
体内の水の八月痺れおり
武骨なる江戸前金魚のべべ着たり
ややごとにレース模様の乳房の間(ま)
己様の滝のステージ昇り竜


坂間恒子
産廃の天辺で啼く夏の雉子
夏の月白樺の幹手首ほど
柿田川デュシャンの便器投げ込みぬ


近江文代
ママ歌いたいのソーダ水くるくる
梅雨寒の豚肉縛られて沈む
片方の耳出している初浴衣
ポリープの数を夏蝶来ていると
喜んで両手差し出す夏の川


北川美美
野口五郎岳隠してゐたる雲の峰
苔茂る室生犀星旧居糸雨
片蔭の途切れ山口澄子死す

2018年9月7日金曜日

平成三十年 夏興帖 第四(加藤知子・夏木久・飯田冬眞・田中葉月・渡邊美保)



加藤知子(「We」「豈」「連衆」)
金魚また死ぬ時計逆まわり
上下する死刑執行日の花火
しばらくは腰のあたりの百合花粉


夏木久
空蝉のやうなその影灯を点し
ホームラン叫ぶラジオや敗戦忌
確執の晩夏輪護謨で束ね放置
土砂降りを営業中です酒屋「虹」
八月や昭和の電話鳴り止まず
にくづきの悪き月齢の臓器移植
黒板の余白へ永久に灰の降る


飯田冬眞
豆腐屋の三和土( たたき )がらんと夏の雲
トマト熟る転勤族の黒き目に
残り香の微かな痛み遠き雷
六道の辻にたたずむ毛虫かな
念力の少年スプーン曲げし夏
ひたひたとデンデラ野より夜盗虫
水を汲む骨を抜かれし浴衣着て


田中葉月
夏の山二十歳のバス停塗りかへる
洪水やいまだ造花の咲きしまま
病葉にのこるくれなゐくるりくら
青柿や雲に聞いたか聞こへたか
生きてゐるただそれだけの螢


渡邊美保
明易の蟇掛け軸に戻りたる
かたつむり琵琶湖一周してきたる
黙々と塩振る男南風
西瓜食ぶ幽霊の役引き受けて

2018年8月31日金曜日

平成三十年 夏興帖 第三(辻村麻乃・中西夕紀・杉山久子・山本敏倖・神谷 波)



辻村麻乃
交尾せし蛍の匂ひ押堀川
蛍火や一生恋をさせたまへ
幸福の木の枝払ふ男かな
丹の橋を渡りて織姫とならむ
風死して誰も降りない電車かな
電話から娘の鳴き声と夕焼と
手花火の焔地殻へ送りたり


中西夕紀
父(とと)さんの名はと文楽汗見せず
誘はれて行きたし大水青発てば
籐寝椅子父のポマード匂はぬか


杉山久子
殺されし牛の肉喰む汗の顔
合鍵につけし鈴鳴る明易し
避暑の荷に足すニョロニョロのぬひぐるみ


山本敏倖(豈・山河)
鬼百合を鬼百合にする十三輪
愚直なる男の背中黒い汗
空蟬が爆弾なるを誰も知らない
指先で空にひらがな描く踊り
雷雲のねじれ未来を炙り出す


神谷 波
招き猫ひやかし四万六千日
四万六千日の風鈴騒々し
四万六千日のつぽの袈裟の鬱金色
ゆきあたりばつたり茅の輪くぐりけり

2018年8月24日金曜日

平成三十年 夏興帖 第二(大井恒行・曾根 毅・網野月を)花鳥篇 追補(早瀬恵子・浅沼 璞・北川美美)



大井恒行
掘り進む夏 地球のみやこ出で来たり
青空に季(とき)ながく触れ夾竹桃
花づなの島に棲みつつ鸚鵡かな


曾根 毅
空蟬や音を立てずに崩れ去り
夏の蝶大方はメルトダウン
何処まで釈迦の声する百日紅


網野月を
持ち運ぶ略礼服や日の盛
天花粉「生まれる」は受動態
片陰の反対側の喫煙所
もしかしてあのビル斜め日の盛
食べること食べられること冷素麺
蝉時雨連休明けは休園日
夏の月廃刊間近の雑誌買う



花鳥篇 追補

早瀬恵子
春ゆけり万葉カクテルのパレット
咲きましてうすむらさきの美童なれ
平成の一休さんの囀りし


浅沼 璞
くわふんくわふん春風亭のやうな顔
ハンガーがからまつてゐる杉花粉
羽織ぬぐ春風亭杉花粉かな


北川美美
引き寄せて桜の実なり潰し嗅ぐ
之布岐咲く日増に雨の重くなり
紫陽花の青がまばゆし夜目遠目
山鳩の声くぐもれる夏の朝

2018年8月17日金曜日

平成三十年 夏興帖 第一(松下カロ・小林かんな・西村麒麟・仙田洋子・岸本尚毅)



松下カロ
噴水の芯に少年サンテグジュペリ忌
ウェディングドレスのやうな驟雨来る
恩讐の果てのホテルのプールかな


小林かんな
数多いて一羽飛び立つ半夏生
夏草を映さぬ瞳してひつじ
茫々と眉毛の灼ける駱駝かな
猛禽の羽毛にふれし白靴よ
カピバラはやがて埴輪に星涼し


西村麒麟
毒の無き蛇かもしれぬけど巨大
滝少し空中を行き落ちにけり
手で扇ぐ三鷹の嫌な暑さかな


仙田洋子
地図濡れてニュルンベルクの緑雨かな
緑さすナチス歩きし旧市街
  銅像
ワーグナーの頭の上の巣立鳥
夏の夜を金管楽器鳴りどほし
讃ふるは黄金の麦酒の大ジョッキ
生ビール恋に飽き人生に飽き
蛇を打ち殺せしイヴのけだるさよ


岸本尚毅
孑孑の浮く水舐めて雀蜂
優曇華や見て百円の福禄寿
空蟬は鬼の貌なり百合赤く
夏帽の皆美しく買はれずに
二番子を御成通りに鳴かせをり
寝そべつて壁の如くに簾あり
灯籠やお供へものを蜂が這ひ

2018年8月10日金曜日

平成三十年 花鳥篇 第八(青木百舌鳥・井口時男・花尻万博・小野裕三・飯田冬眞・佐藤りえ・筑紫磐井)



青木百舌鳥(夏潮)
土砂降に乱るる岸に乗つ込める
初蚊来ぬ見違へるほどよく弾む
外房やアボカドライス生ビール
むく犬の和毛の艶や樫若葉


井口時男
蛇七態
ぞわぞわと青血泡立ち穴を出る
ひなげしを灯しおくぐるる溶けるまで
ウロボロス腹のあたりが膨れたる
お日がらようてお身がらようて皮を脱ぐ
つるみ合ふ鱗蜿々合歓の花
水うねり文身ぬめり虹二重
朽ち縄さみし白身の肌はそつと締め


花尻万博
美しき鴨居に垂れる鮎の宿
人死ぬ間花虻濡れてしまひけり
日の入りの陽射し返さず桐の花
母屋みな国の繋がる初蚊かな
鬼の子の足軟らかき代田かな
蠛蠓やさつきから鬼見当たらず


小野裕三
園児らはさあっと引き上げ桜の実
大皿に海の仲間を並べ初夏
出陣のごとき守宮の現れり
幸運な世界に移る雨蛙
おきあがりこぼしも並ぶ舟料理


飯田冬眞
たんぽぽの絮吹きだまる議事堂前
三叉路に顔なき地蔵蝶生るる
蛙合戦策略のなき後ろ脚
のど飴を片頬に寄せ春惜しむ
夏の鳥ヒエログリフは左向き
手の中に火の付きさうな杏の実
俳号も偽名のひとつ鰻喰む


佐藤りえ
HERMESの旗も五月の風の中
夏来たる鋏を研いでゐるうちに
夏暁の夢にてひらく哲学書
とむらひにひとつ氷をふふませて
かたはらの猫に聞かせる夜来香


筑紫磐井
きつと梅雨兜太を偲ぶ会の告知
濃あぢさゐ八百屋お七の墓隠す
御町内のゴミを集めて五月来る

2018年8月3日金曜日

平成三十年 花鳥篇 第七(加藤知子・西村麒麟・水岩 瞳・ふけとしこ・中村猛虎・仲寒蟬)



加藤知子(「We」「豈」「連衆」)
木下やみ巣箱は街につながれて
藻の花のだいじそうなるはらんでる
イミテーション家族しゅうごう行々子


西村麒麟
古き世の如くに月や野遊びに
地虫出て他の地虫を見てをりぬ
潜るのが得意な鳥も春らしく


水岩 瞳
廃屋の門に瓦に飛花落花
抽斗の奥のさざ波さくら貝
脱脂粉乳今は無脂乳昭和の日
そのまんまでいいよ憲法記念日
薔薇ばらになつてゆく我夕まぐれ


ふけとしこ
西の方丈椎の香に攻められて
ででつぽつぽう桜の実黒く落ち
肘までの黒き手袋あらせいとう


中村猛虎
人間の暗渠に桜蕊の降る
囀り時々ジェットコースター
犬ふぐり母は呪文で傷治す
重心を持たないままで落つ初蝶
花は葉に左回りに摺る淡墨
ひとりずつカプセルにいて花の雨
花びらの重なってゆくふくらはぎ


仲寒蟬
蕗の薹洗濯物がすぐ乾く
ついてゆく川越えられぬ初蝶に
与太者と言はれて蛙にはやさし
砂時計砂落ちきつて鳥雲に
彼岸とも此岸ともなく川面へ花
華鬘草だけは前から知つてゐる
牡丹園観客もまた揺れてをり

2018年7月27日金曜日

平成三十年 花鳥篇 第六(岬光世・依光正樹・依光陽子・近江文代)



岬光世(「クンツァイト」「翡翠」)
人のゐて人住まぬ島栗の花
捩花や蝶は惑はぬ迷ひ道
夜の更けていよよ淡きは仏桑花


依光正樹(「クンツァイト」主宰)
草ともにそよぐがありて著莪の花
水使ふ音のかそかや額の花
額の花よく根がついてうつくしく
ゆく鳥に花を摘みたる女かな


依光陽子(「クンツァイト」)
野のものに弔ひもなし杉菜生ふ
彼方より低く来る蜂かきどほし
尋ぬるに番地が頼り花水木
朝顔の苗に蛇口をひねる頃


近江文代
サボテンを切れば昨夜の水滲む
芍薬の光の束を信頼す
金魚得て水の膨らむ夜であり
某日を人を焼くように繭を煮る
生きている十本の爪青山椒

2018年7月20日金曜日

平成三十年 花鳥篇 第五(前北かおる・望月士郎・林雅樹・下坂速穂)



前北かおる(夏潮)
遠足の金平糖の大袋
遠足や空を仰ぐに芝に寝て
塗りたての大吊橋や谷若葉


望月士郎
桐の花わたくし雨とあなたの雨
蛍狩しらない妹ついてくる
鳥のいるページめくると白雨の街
はんざきの半分もらってくれという
射的場の人形ひとつ落ち夜汽車
みみなしやま風鈴売の振り返る
髪洗う指にこの世の頭蓋骨


林雅樹
塀の上の鉄条網や夕桜
囀や質屋の飾窓に真珠
永き日の女相撲に暮れにけり
桜蕊降るや弓道場無人
張られたる田水光るや闇の中
カンテラの近づいて来る時鳥
葉桜の窓に光れる抜歯かな


下坂速穂(「クンツァイト」「秀」)
魚の水脈鳥の水輪や更衣
蓮咲いて明日の吾をうつす水
その母に聞く友の死よつばくらめ

2018年7月13日金曜日

平成三十年 花鳥篇 第四(岸本尚毅・渡邊美保・神谷 波・木村オサム・堀本吟・内村恭子)



岸本尚毅
どの店の煙ともなく梅雨の路地
店の中あちこち眺め麦酒のむ
蚊喰鳥後生鰻の水深し
世紀末過ぎて久しき昼寝かな
眉と髯こぞりめでたき裸かな
南瓜抱く夕焼村の村長は
昼顔が遠く咲くのみ昼休


渡邊美保
ボール蹴る少年老いて花は葉に
賞品は白詰草の首飾り
曳航の後の高波夏燕


神谷 波
つれだつてつつじを越える揚羽と揚羽
昨日ほととぎす今日鶯の主張
気兼ねなく十薬群れる日陰かな
あぢさゐの「あ」のいきいきと濡れてゐる


木村オサム
夏蝶来君に寝癖がある限り
潮まねき波打ち際の音たわむ
文字のなき砂漠の上を紙魚走る
町内に虎いる気配大西日
許されたつもりまくなぎついて来る


堀本吟
神功皇后陵
亀石や亀の祖先と鳴いてみた
蜂飛んで来るも高くもない鼻に
はんかちを線対称にわかつ蟻
白砂に倦み巌磐井石清水
神功皇后陵ある村や立葵


内村恭子
ゴンドラの櫂の音響く夏館
夏潮や波音に消ゆ「タジゥ」の声
パラソルはいつも青白縞模様
夕星を待つ中庭の噴水に
衣擦れと甘き音楽夏至の夜の

2018年7月6日金曜日

平成三十年 花鳥篇 第三(坂間恒子・網野月を・渕上信子・田中葉月・山本敏倖・原雅子)



坂間恒子
葱坊主真昼の寂しさに磁力
柏餅テトラポッドの女体めく
減塩・全粥母の日の母あかるくす
褄黒豹紋蝶三途の河を渡りくる
百頭の蝶のまつわる母の部屋


網野月を
風なぶる髭もうじきに関帝祭
五月闇とれた釦を付けてをり
貌照らすスマホの明り五月闇
小満や松竹錠をへの六へ
バラ優し自分の匂いの好きな子は
この頃の傘はパステル桜桃忌
寅さんの軽きボストンかたつむり
 

渕上信子
愁ひ貌なる春のAI
はこねうつぎのまだ白き頃
巨星落つ五月号立読み
こゑ張上ぐる日雀小さし
立てば尺蠖座れば釦
水着廃止のミスコンテスト
動く歩道を走る香水


田中葉月
てふてふのそのてふてふのかくれんぼ
勾玉ものびをするらし茅花風
繭ほどをつみかさねつつ生きてをり
ほらもつと見てゐてほしい額の花
くちべたでたぶんぶきよう釣鐘草
北斎の波より奇なり花卯木
万緑や走る教師の夢途中
父の日やそろそろ父の顔をぬぎ
言の葉の茂みより出づ三光鳥


山本 敏倖(豈・山河)
宙返る江戸の匂いの鉄線花
寸法は蜘蛛の囲ほどの叫びかな
劇薬の劇中劇や濃あじさい
薄墨の空間を経て緋鯉行く
玄室の象形文字を辿る蟻


原雅子
見えてから遠き灯台草萌ゆる
浮島やほのぼの雀隠れなる
ふるき佳きあめりかあめりかはなみづき
いくばくか力まだあり山青む
春祭まづ神官がつまづいて

2018年6月29日金曜日

平成三十年 花鳥篇 第二( 椿屋実梛・夏木久・杉山久子・小沢麻結)



椿屋実梛
春まけてバーカウンターに一人ゐる
龍天へとほくの空にヘリの音
桜前線どこの桜を観にいくか
教会の桜明るき日曜日
残業のあとかろやかに夜桜へ


夏木久
九電の灯は煌煌と五月闇
空蝉を覗いてみたが警備員
写生の手は休み休みに花は葉に
精一杯火を吹き消す涙のバースデイ
形程よく恥毛剃られり夏の巴里
水中花愛に言葉は不要かな
10ルクス程に記憶を初蛍


杉山久子
黙示録記されしのち蠅生まる
早苗田となるしろがねの雲宿し
黒南風や蜷局巻きては解きては


小沢麻結
永遠の若さは呪ひ薔薇廻らせ
萵苣刈りぬ乳迸る先へ先へ
裏山の緑蔭秘密基地として

2018年6月22日金曜日

平成三十年 花鳥篇 第一(仙田洋子・辻村麻乃・松下カロ・曾根 毅)



仙田洋子
春闌けて絶滅近き鳥けもの
春愁や目覚めてもホモ・サピエンス
花は葉に昭和遠のくばかりかな
武蔵野の浮巣に座りたくなりぬ
鵜の眼死者悼むごとぼんやりと
どくだみのびつしりよもつひらさかは
音もなく三途の川のあめんばう


辻村麻乃
一斉にダムに飛び立つ夏燕
蛇苺摘みて少女のいなくなり
降る前の空の暗さよ草いきれ
辞儀する牡丹の下の牡丹かな
お向かひのマダムの窓のゼラニューム
空豆が一粒置かれし母の部屋
羽ばたきて揚羽溺れてゐたりけり


松下カロ
たんぽぽを吹いて平気で嘘をつく
卒然と箱庭の川途切れけり
あぢさゐの刺青は乳房におよび


曾根 毅
澄みきっている春水の傷口めく
一瞬の蝶の曳きたる無重力
山の端に髪を束ねし水遊び

2018年6月15日金曜日

平成三十年 春興帖 第九(網野月を・水岩 瞳・青木百舌鳥・佐藤りえ・筑紫磐井)



網野月を
雪という娘がいて春の日を迎う
ぶらんこに坐す老残の目の濡れて
料亭の昼行灯や春告鳥
目借時拾ってしまう捨て台詞
平成に最後の昭和の日なるか
尾を右へ振れば右向く稚鮎かな
リビングに自分空間こどもの日


水岩 瞳
テスト終はつたあ!イェ~イ立春
不合格合格なべて春疾風
文集に君の文字なく卒業す
無人駅春天に日も月もゐて
コンクリの溝はいつしか花筏


青木百舌鳥(夏潮)
はやり目に罹りをれるも花の後
樹々若葉してきらきらと名を得たる
ながらみといかものぐひの目が合ひぬ
虻に生れ蠅に生れて並び居る


佐藤りえ
仮想敵打ち据ゑ猫の仔の停止
ポンヌフは新しい橋鳥曇
檻に春来て唐獅子の眞居眠り
遅桜御息所をねむらせよ


筑紫磐井
割れるまで蝌蚪の大団円の塊
山独活の般若波羅蜜より苦し
春疾風煙の上がる国境
保守党が負けても村はうららかに
友情を引きかへにして恋うらら
卒業式みな親指のよく動く

2018年6月8日金曜日

平成三十年 春興帖 第八(岸本尚毅・辻村麻乃・山本敏倖・加藤知子・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)



岸本尚毅
春寒やあたたかさうに花屋あり
お彼岸のお稲荷様や人遊ぶ
墓の辺や藤ははげしく虫を寄せ
毛深くて蜂と思へぬつらがまえ
やどかりや絶壁に汝死ぬなかれ
母と子と春の日暮の砂あそび
衣笠にすこし涙やチユーリツプ


辻村麻乃
シャッターを押せば鶯鳴きにけり
初鳴きや父の奥津城ふんはりす
わたくしを休業したる春の風邪
赤き眼に包囲されゐて花万朶
風光る大黒様の腹の皺
村中の鯉のぼり今飛ばんとす
戻り橋手招きしてゐる花蘇芳


山本敏倖(豈・山河)
囀りや古いからくり時計ぱろ
パッカーションお国訛りの木の芽かな
奥へ奥へ麒麟の影を曳く霞
麦踏んで大地の神を目覚めさす
オートロックする単線の逃げ水


加藤知子
水仙の水は古地図に浸み渡り
チューリップのチューの相手は機密保護
木瓜咲くや尊きものは死んでいく


下坂速穂(「クンツァイト」「秀」)
ひらきたる窓の上に窓鳥帰る
風光る水底に棲むものたちへ
うつくしき日本の旗と甘茶仏


岬光世(「クンツァイト」「翡翠」)
粗忽なる膝かしこまる桜餅
流れありときに蛙のこゑとして
堆き三十年や春の坂


依光正樹(「クンツァイト」主宰)
たんぽぽの中に私が咲いてゐる
春灯や館を守る紺絣
妓をやめて店を持ちたる花蘇芳
春の海に面テ上げたる女かな


依光陽子(「クンツァイト」)
風光る空貝より汐溢れ
掌に乾ける貝や鳥ぐもり
鼓草踏んでか黒きかもめかな
黄の花と蝶をちりばめ野となりぬ

2018年6月1日金曜日

平成三十年 春興帖 第七(近江文代・渕上信子・花尻万博・浅沼 璞・五島高資)



近江文代
くちびるを薄くレタスを裂いている
遠く来て磯巾着の縞模様
遺影とは三色菫咲くところ
片方の足組んでいる藤の昼
発音の途中浅蜊の口開く


渕上信子
連翹よりも山吹の濃し
百千鳥花殻摘に倦み
花過の月細りゆく日々
もやしの髭根とる夫に蝶
昭和の日安楽死の話
夕ひばり黒点となるまで
春をかなしむ家持のごと


花尻万博
桜貝いちいち波に応へ照る
浸す足持たぬ仏に水温む
何もかも子らに任せる桜烏賊
牛の声鬼の声草摘みにけり
花疲見ている沖の光かな


浅沼璞
時の門ぬければ石だたみ芽吹く
実朝の石の烏帽子の風光る
看板に春雨 東京流れ者


五島高資
沈みたる島と繋がる磯焚火
永日や手のひらに手のひらを置く
方丈の岩屋に空や雪解水
雛の間や川は夕べへ流れけり
右大臣の烏帽子を直す雛の朝
蹲へば雲母さざめく正御影供

2018年5月25日金曜日

平成三十年 春興帖 第六(木村オサム・渡邉美保・内村恭子・真矢ひろみ・前北かおる)



木村オサム
三猿のでんぐり返る春の泥
形代を透かして見やる春日かな
家政婦がとある女雛に耳打ちす
夜桜やパジャマのままでコンビニへ
真夜中に遇ふ三匹の孕み猫


渡邉美保
花曇うつぼかづらを吊り怠惰
うつぼかづらに誘われてゐる花の昼
臨界とは浦島草の裏表


内村恭子
応接間いつもひんやり風光る
春浅しレースのカバー長椅子に
アップライトピアノに少し春の塵
春宵の硝子の煙草盆光り
朧夜や百科事典の並ぶ棚


真矢ひろみ
空豆を炒る素粒子にスピンあり
落花止まず翳らしきもの魂らしき
副作用とは青饅の舌ざわり
シャボン玉短詩はアイデア勝負なの
春灯ちゃぶ台返しを躊躇わず


前北かおる(夏潮)
囀や目覚めの遅き木を仰ぎ
はすつぱにつつじの花のひらきけり
桜餅みやげ話を朗らかに

2018年5月18日金曜日

平成三十年 春興帖 第五(林雅樹・ふけとしこ・小沢麻結・飯田冬眞 )



林雅樹
飛び降りて涅槃で待つや沖雅也
春浅し塩素の匂ひしてキッチン
雛の間に翁媼と来て交る
踏青や俳人どもは屁で会話
臓物のバケツに光る日永かな


ふけとしこ
草の芽や大道芸の輪の飛んで
ベーコンとマッシュルームと春愁と
保養所といふも廃墟に松の芯


小沢麻結
春立つや林道へギア切り換へて
ぶらんこを離れぶらんこもう忘れ
チューリップ心開くにまだ少し


飯田冬眞
末黒野や風のかたちに焼け残る
焼野原大股で逝く兜太かな
去る者は去りささやかな土筆かな
振り向けば影のほかなき遅日かな
春雷や神の戻らぬ井戸を掘る

2018年5月11日金曜日

平成三十年 春興帖 第四(堀本吟・小林かんな・神谷波・望月士郎)



堀本吟
  * 猫が来た
新入りはあいさつ知らん猫柳
らんぼうに猫をあつかうクローバー
ゆったりと芥に従いて花筏
  * 下界の事情
忖度をいっぱい埋めてお安い御用
荒れもようたまらんたまらんぺんぺん草


小林かんな
蛸地蔵駅が最寄や花の城
築城の謂れは知らず花筏
歴代の具足六体陽炎る
甲冑の着用図解昼の虻
会場費にがっちょ合算風光る


神谷波
名を知らぬ人と話の弾む春
エイプリルフールの空の瑞々し
あの人もこの人もマスク西行忌


望月士郎
海市消え寄せては返す哺乳瓶
病棟に夜の触角さくらざい
老人に初めてなってみて栄螺
弟のような妻いて春の鼻
霾るや手相に知らない町の地図
春の虹コップを重ねたら斜塔
旅は風音ときおり蝶のかすり傷

2018年5月4日金曜日

平成三十年 春興帖 第三(仲寒蟬・曾根毅・夏木久・坂間恒子)



仲寒蟬
海市にまだランプ磨きといふ仕事
かの世まで川向かうまで花菜畑
妻とちがふ時間を生きて朝寝かな
鶯餅やつぱり膝を汚しけり
鳥雲に入るや知恵の輪外れたる
春月や今産まれたるごとく島
結婚指輪抜けなくなりぬ春の風邪


曾根 毅
飛花落花抜けて眼鏡のつる固し
寄居虫の見えなくなりし男根期
出囃子のひとりは霞かも知れず


夏木久
観劇や間隙へ花迷ひ込み
鼻かめば話外され花ふぶく
鳥のゐる部屋を叩けり魚の貌
設計図の2階の部屋より花水木
灯は消せど出るに出られず今日の部屋
りんかくをしみじみけせるしじみじる
そこそこに底に響けるさようなら


坂間恒子
花冷えの二十四階からおりる
白蝶の壊れつつくる真正面
ひとひらのさくら冷たき捨て鏡
揚げ雲雀花束川に捨ててある
転生の夏鹿眼そらしけり

2018年4月27日金曜日

平成三十年 春興帖 第二(大井恒行・田中葉月・椿屋実梛・松下カロ)



大井恒行
空さびし青またさびし初つばめ
よみがえる一枝もなき桜かな
まぬかれぬ死はあり泰山木の花


田中葉月
夜桜や小さき拍動生まれ来る
遠足のメザシぞくぞくやつて来る
メデゥーサの深き哀しみ木の芽立つ
乳暈のゆつくりひらく春の水
桜湯や元気でゐますお母さん
嫁ぐ日の大和ことばや花の雨
少年にもうもどれない蝌蚪の紐


椿屋実梛
朝のままカップに残る桜湯よ
花客去ぬ日の暮れ方の匂ひをり
夜桜の薄紅の灯に街染まる
花かがり白川の水鏡なす
眠れない夜を見下ろせば花並木
冷めてゐる夜の珈琲啄木忌
伝説の空のさざめく雁風呂よ


松下カロ
封筒にのり代 埠頭に春の雪
少年の腕へさくらは散りたがる
男死に女は尼に春の雪

平成三十年歳旦帖 補遺(ふけとしこ)/【歳旦帖特別版】金子兜太氏追善 補遺(望月士郎)

平成三十年歳旦帖 補遺

ふけとしこ
手びねりの仏ちよこんと初明り
正月の大きな月を仰ぎけり
読み上げる歌留多に動く猫の耳




金子兜太氏追善 補遺

望月士郎
きょお!と幻聴夜汽車のような宿に眠る
「おおかみに」と刻む春昼の巨きな石
永き日の「遊牧集」で掻く背中

2018年4月20日金曜日

平成三十年 春興帖 第一(北川美美・小野裕三・仙田洋子・杉山久子)



北川美美
春岬バナナワニ園上から見
右へ左へ河津桜の原木へ
梅園を巡る途中の猿まわし


小野裕三(海程・豆の木)
万巻の背表紙に向け北窓開く
永き日の葬具一式押し進む
裏側は人の音する花馬酔木
観梅を右へ左へ食堂へ
春のひとびと快速艇が運び去る


仙田洋子
はるばると来し江南の桜かな
江南のわれも旅人桜人
春の夜の無錫の運河灯りかな
うららかや紅きランタン窓に揺れ
煬帝の運河の上をつばくらめ
上海の風に吹かれて春ショール
上海の夕日の赫と桜かな


杉山久子
スカートの楕円にまはる鳥の恋
かけがへのない日海雲を食べてゐる
亀鳴くや死の話のち湯の話

2018年4月13日金曜日

平成三十年 歳旦帖 第五(松下カロ・内村恭子・浅沼 璞・渡邉美保・佐藤りえ・筑紫磐井)



松下カロ
人日の一駅先の合鍵屋
刻まれて芹は小さな島となり
だぶだぶの花柄パジャマ小正月


内村恭子
初浅間風のナイフが削ぎ真白
狛犬の化粧際やか初詣
中京や雪積もりゆく犬矢来
飼犬はをらず読初に八犬伝
ロビーに金屏風外は銀世界


浅沼 璞
歳旦三つ物
犬あまた初日まぶれに丘の上
 飼主たちの交す年酒
花を酔ひ月を酔うてはギター抱き


渡邉美保
お焚上の最後の榾の燻れり
あやふやな顔となりけり初鏡
日照雨きらきら予定なき五日
人日の魚の肝のゼリー寄せ


佐藤りえ
あはゆきをたつたひとつのお守りに
クレヨンの海漕ぎいづる宝船
大寒や末の娘も指圧中
履き物の出尽くしてゐる三が日
野良猫に尾など振られて御慶かな


筑紫磐井
平成のなつかしくなる初放屁(おなら)

2018年4月6日金曜日

【歳旦帖特別版】金子兜太氏追善・伍(山本敏倖・依光正樹・依光陽子・関悦史)



山本敏倖
「良く来た、良く来た」右手を挙げて春と逝く
慟哭のかたちに秩父音頭かな
青鮫から狼の背へ魂遊び
菜の花月夜へそ出しっ子の兜太いる
モノクロの借景と行く春の人
二月二十日は兜太の忌なりけり
人間を振りむかさせる兜太の忌


依光正樹
魚島や石の礫が届くだらうか


依光陽子
糞の中に黒き種あり兜太逝く
蝶よりもかろき人灰になつたといふか


関悦史
誤報後の春本当に兜太亡し



左様なら!
(「俳句四季」5月号の「俳壇観測」で、筑紫が「金子兜太逝く」を載せています)

2018年3月30日金曜日

平成三十年 歳旦帖 第四(下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・水岩瞳・竹岡一郎・木村オサム)



下坂速穂(「クンツァイト」「秀」)
一羽づつゐる鳥籠や初昔
母の背を越えかねてゐる春著かな
雪囲しかと亀甲結びして


岬光世(「クンツァイト」「翡翠」)
鈴の紐ぎいと唸りし初御空
竹筒の太きに独楽の坐りたる
化粧せぬ皺のゑまふや初鏡


依光正樹(「クンツァイト」主宰)
皆とほる門のあたりや冬構
母のもの豊かに使ひ毛糸編む
枯るる中青きがつのる冬の川
この道を歩いて淡し迎春花


依光陽子(「クンツァイト」)
歳晩の棚の奥なる種袋
餅配了へて鳥の餌摺つてをり
この鉢の苔こそよけれ年の梅
元日の艶のなくなるまでの街


水岩瞳
非武装を一笑に付す年男
九条の論議の果ての初湯かな
立憲と護憲は違ふ初日記
会ひたしは美辞麗句かも年賀状
恋文も紙袋ごとどんどかな


竹岡一郎
日溜に稿置く仕事始かな
かまくらに膝抱へたりフィリピーナ
初鳩や花街の真ん中の寺
初護摩のほむら大悲の音はぜて
鬼は陽に沐せり役行者の忌


木村オサム
風呂桶の底の「ケロリン」年新た
初鏡頭の中に波の音
ぽっぺんや双子のひとりだけが舞ふ

2018年3月23日金曜日

平成三十年 歳旦帖 第三(真矢ひろみ・北川美美・西村麒麟・曾根毅・青木百舌鳥・小沢麻結・前北かおる)



真矢ひろみ
父と子とコンビニ弁当初茜
初空やマレビトを待つがらんどう
水流る音は言葉に初寝覚


北川美美
嫁が君一秒で着く隣かな
嫁が君テディベアーと眠りけり
嫁が君亀の背中に乗せてやろ


西村麒麟
平面の広がつてゐる初景色
手毬唄我が靴下の派手なこと
狐火をほれぼれ見るや初句会


曾根毅
傍らに二人を育て薺粥
寒月光松に習えば松に消え
降る雪や影だんだんと濃くなりて


青木百舌鳥(夏潮)
初旦真魚箸の盛る貝の音
曳猿の立ちてとつくり見回しぬ
うす墨となり雪原の川消ゆる


小沢麻結
初夢は忘れ悲しみ残りをり
天蓋の天女へ火の粉初不動
初句会吾に掛替へなき仲間


前北かおる(夏潮)
ふつくらと御殿の御屋根松の内
初句会披講の籤に当たりけり
白妙の湯煙ゆたか雪見風呂

【歳旦帖特別版】金子兜太氏追善・肆(ふけとしこ)



ふけとしこ
兜太よりもらひし言葉草萌ゆる
戯れのはずのぶらんこ何処へ漕ぐ
  

2018年3月16日金曜日

【歳旦帖特別版】金子兜太氏追善・参(長嶺千晶・大井恒行・堀本吟・小林かんな・渡邉美保)



長嶺千晶
造型壊すとき狼の山河
   

大井恒行
かの春に近代主義者だって?と詰め寄る兜太
     約束を果たせぬままに逝きたる兜太
大正八年以来の兜太雲に鳥


堀本吟
現代俳句協会入会当時二十余年前の思い出
まみえしに破顔一笑「暴れてください」
  人体冷えて東北白い花盛り 金子兜太『蜿蜿 』
「人体冷えて」と口ずさみつつ花を見る
戦後否戦前の春や否や兜太


小林かんな
旅立ちを知らず野の花摘んでいる
ひとびとに遺る大きな種袋
きよおと哭いて列車は春をどこまでも


渡邉美保
声に出す兜太の一句春の雲

平成三十年 歳旦帖 第二(渕上信子・辻村麻乃・山本敏倖・夏木久・中西夕紀・林雅樹・飯田冬眞)



渕上信子
アップデートの不意に元旦
読初は日本国憲法
淑気満つ前文の「決意」に
ふくら雀の遊ぶ朝日子
梅かしら雪かしらゆふぐれ
残雪を踏み皆既月蝕
あはれ寒晴れ米軍機二機


辻村麻乃
頂上に烏立たせて山眠る
冬ざるる地蔵の袈裟の黒き染み
十屯の仁王の手形鐘氷る
三枚のセーター抜けて空は青
大氷柱武甲の海を宿しをり
枯木立角馬出になだれ込む
空堀や射したる冬日跳ね返す


山本敏倖(山河・豈)
初日出てどこか壊れる音がする
初富士にかかる神奈川沖の荒波
路地裏に半円を描き独楽走る
伊勢海老の尻尾が跳ねて天を突く
福袋から南南東をおぎゃあする


夏木久
狐火の上をドローンの彷徨く夜
子の影の犬に猫にも冬麗ら
ご遺族の室内楽は暗礁に
養蜂家風光るまでの放蕩
喀血を隠せし笑みや冬菫
檣林の風の捻れや術もなく
日が昇り手にす昨夜に研ぎし鎌


中西夕紀
細き糸曳きて鷺飛ぶ冬の朝
氷張る田圃と熊野神社かな
知らんぷりしてをり葛湯吹いてをり


林雅樹(澤)
温泉みゝず芸者VS竿師段平姫始
ひとしきり暴力振ひ姫始む
女礼者僕を無視するアティチュード


飯田冬眞
船底を叩く波音年新た
切りたての門松匂ふ筑波道
松飾すこし傾ぎてかまぼこ屋
初風に引き回さるる猿の綱
豚の子の声に囲まれ淑気満つ
じわじわと風を追ひつめ初鴉
本棚の隅に猫ゐる松の内

2018年3月9日金曜日

【歳旦帖特別版】金子兜太氏追善・弐(加藤知子・小沢麻結・竹岡一郎・小野裕三・早瀬恵子・杉山久子・神谷 波・真矢ひろみ・水岩瞳・渕上信子・池田澄子・中山奈々・木村オサム・浅沼 璞)



加藤知子
【訂正】
春落暉大先生の掌ありしが


小沢麻結
芽吹山秩父音頭の七七五
春疾風駄目出しの声なほ耳に
春の土なつかし荒凡夫とほし


竹岡一郎
智慧の夜や眉間は春の焚火照り
立春の巌が国家視てゐたり
大兵のぬくき手や飢ゑ刻まれし
初蝶を非業の島へ送り給ふ
狼に常世の萌のはてしなく


小野裕三
兜太なき春孤島も斜面も青くあり


早瀬恵子
梅咲いて骨太のひかり瞑するや
やあやあやあ梅の空には兜太あり


杉山久子
おおかみとともに行きたる野の青し


神谷 波
庭の雪解けしばかりに兜太逝く
獺祭に鮫ひきつれてゆく兜太


真矢ひろみ
20年ほど前に、或る会に遅参した兜太を某俳人が厳しく叱責した際、「やあ失敬、失敬 年のせいかトイレが近くなり・・」と全く意に介する素振りなく、その茶目っ気ぶりに唖然とする

「やあ失敬」とおぼろ月夜を後にせり
春泥や秩父の民の還りたる
青鮫がゐる白梅に明くる朝


水岩瞳
「戦争の影が・・」と兜太の年賀状
遥かなるこの春愁や兜太無し
大神になつて蛍をつけにけり


渕上信子
庭中の梅の盛りや兜太の訃
逝かれけり白い花みんな咲いてよ
春の夜の遠火事視るは老いひとり


池田澄子
秩父鉄道添いの去年の桜よあぁ
梅散りぬ秩父音頭をもう一度
    

中山奈々
兜太さんが亡くなったからといって、俳句人口の平均年齢が下がる訳じゃないのだけど、一気にみんな赤子のようになってしまった。

兜太忌は二月蜆の黒々と
蜆汁翁死すればみな赤子
献杯の酒安すぎてごめんなさい


木村オサム
おおかみが無骨な岩に立っていた
どの本能膨らまそうか枝垂梅
青き踏む九百二年後の兜太


浅沼 璞
火事一つ蛍一つをならべゆく


平成三十年 歳旦帖 第一(網野月を・堀本吟・仲寒蟬・坂間恒子・小野裕三・神谷 波・杉山久子)



網野月を
初明り見慣れし山山の匂い
初日の出自ずと体を正対す
白銀の雪白銀の淑気満つ
大病治し淑気満つ古女房
俎板の初めは菜切の軽さ
稚児鱈や休めて四五回研ぐ庖丁
息掛けて相合傘の書始め


堀本吟
年明ける
 平成三十年元日夕べ月の出満月前夜
あらたまのスーパームーンおおきいな
マイホーム遁げ黄道を行くチワワ
粥占にぐじゃぐじゃとこの起居なり
火の鳥はでてこなかったとんど焼き
 一月三十一日・満月・皆既月食
スーパー・ブルー・ブラッドムーン一月尽


仲寒蟬
裏山へつづく足跡去年今年
音鳴らぬラヂオの上の淑気かな
鳶一羽容れあり余る初御空
雑煮餅伸ばせば湯気も伸びにけり
これたしか木曽の土産の雑煮椀
具の奥に朱のあらはるる雑煮椀
アマゾンで来る初夢の宇宙船


坂間恒子
初鶯支援学校門ひらく
元旦や感情の鏡ピアニッシモ
修道女(シスター)と連れ立ちゆきぬ弥撒始め


小野裕三
ほぼ空の大きさである初詣
書初めの二番目の文字もう斜め
七草粥宇宙の果てのごとくあり


神谷 波
気力使ひはたして除夜の抱き枕
去年今年鏡の中を覗きこむ
元日のキッチンなにやらよそよそし
片田舎のスーパームーン注連飾


杉山久子
雨のことすこし記して初日記
羊日の読み取り難きバーコード
CMがうたふ新春墓石フェア

2018年3月2日金曜日

【歳旦帖特別版】金子兜太氏追善(辻村麻乃・曾根毅・月野ぽぽな・五島高資・北川美美・島田牙城・豊里友行・加藤知子・仲寒蟬・神山姫余・佐藤りえ・高山れおな・筑紫磐井)



辻村麻乃
 斑雪山
斑雪まだ聞き足らぬ秩父の子
困民党残せし痕や春社
狼の天を見つめる眼に涙
兜太いま春の武甲に木霊して
斑雪山あれは兜太だつたかもしれぬ


曾根毅
狼の冷たくなりし黒眼鏡
腹出して寝る人間【じんかん】の零余子飯


月野ぽぽな(海程)
天に星地に梅ともし兜太逝く


五島高資
片目にて笑む師のなみだ風光る
永日や手のひらに手のひらを置く
冴え返る利根の流れや巨星墜つ
利根川や冬三日月の残りたる
福島の残雪ゆがむ泪かな


北川美美
海程秩父道場にて兜太氏は旅館側で用意した二つに裁断されたバナナを片手摑みに登場。2015年の春だった。
マラソンや手渡すバナナ半裁に


島田牙城
金子兜太逝くや春星ふくらませ
なほ停まらざるや兜太の三輪車
星の中の星の地球ぞ兜太逝く
兜太の狼敏雄の狼を追へり
然らばとて然らばと言へり兜太逝く


豊里友行
海ほど脈打つ兜太のほうれん草
海ほどの金子兜太の夢野かな


加藤知子
春落暉大先生の掌ありしが
花盛りを待たず人体の別れかな
梅が香やへうと自在のかなたへと


仲寒蟬
どこまでも狼を追ひつづくべし
臍出して立小便を春空から


神山姫余
春一番兜太が鮫に乗ってゆく
天翔る陸の鯨や兜太逝く


佐藤りえ
草の舟乗らうかさうか手を貸さう


高山れおな
さほひめ と つれだつ まかみ ふりむかず


筑紫磐井
北天に架かるあれが
かくも静かに二月の記憶 兜太星



第83回海程秩父俳句道場(2015年4月5日(日)) 写真:北川美美
左より金子兜太・関悦史・筑紫磐井

左より、安西篤・筑紫磐井・金子兜太・関悦史
背後ホワイトボードの句(金子兜太:老人は青年の敵 強き敵 (筑紫磐井))

平成二十九年 冬興帖 第八(中西夕紀・北川美美・西村麒麟・佐藤りえ・筑紫磐井・羽村美和子・浅沼 璞・五島高資・高山れおな)

中西夕紀
細き糸曳きて鷺飛ぶ冬の朝
氷張る田圃と熊野神社かな
知らんぷりしてをり葛湯吹いてをり


北川美美
柴犬が戻つて来たり枯野より
太陽の赤く絞れる枯野かな
枯野より手を振る人のよく見える


西村麒麟
鯛焼や遊びをせんとたまに思ふ
石多き冬の赤穂を通過中
鳰泳ぐ鳰より別れ来し如く
鳰脚を揃へて沈みけり
着ぶくれてゐる人々や肉を焼く
別嬪でありし日の絵や鴨の宿
一つある円寂の図や初氷


佐藤りえ
釣り人はダム湖の冬日見て帰る
降るまでは雪ぢやなかつたやうな雪
店名の一文字欠けて冬灯
皆死んでちひさくなりぬ寒苺
寝穢くゐつづけ春を待ちやがる


筑紫磐井
君の心は小春のやうに虚子の穴
三階から落ちる老人枯一葉
人格者うさぎおいしく煮てしまふ


羽村美和子
品格に一番遠く海鼠ずき
模倣犯生半可にして枯れ薊
ポインセチア明日は知らない街歩く
水仙花風の誘いに乗りません
達磨落としこつんこつんと山始
表情筋夜ごと鍛えて 鮃
寒牡丹未明に月への船が出る


浅沼 璞
小春まだ元気かと腕にとまるよ
雪ばんば淡くにごりてよろけける


五島高資
鉄パイプ落ちて響ける枯野かな
紙垂光る内はほらほら鳥総松
嵩上げや小石に長き春の影
日は海を離れ蔵王の息白し
金星の残るインフルエンザかな


高山れおな
  自平成二十五癸巳至平成三十戊戌歳旦
癸巳 まきに まく ほねしやうぐわつ の じや の ねむり
甲午 うま と ゆめ はつしのゝめ を かけめぐる
乙未 はつくゝわい ひつじ の かは を わすれず に
  芭蕉寛永二十一年甲申、蕪村享保元年丙申、
  愚生昭和四十三年戊申。
丙申 さるめん を きゝ と つらぬる はつあかね
丁酉 とりのこ を かけて ぎんしやり しやうぐわつ も
戊戌 は を むいて まかみ ましら の ぎよけい かな
同  しゆくき とも かれいしう とも いへば いへる

【編集者注:6年分の歳旦帖なので冬興帖の末尾に入れました】

2018年2月23日金曜日

平成二十九年 冬興帖 第七(岬光世・依光正樹・依光陽子・加藤知子・関悦史・小林かんな)



岬光世(「クンツァイト」「翡翠」)
寒稽古見えぬ巌の胸を突く
真直ぐに立つ裸木の山法師
餅搗の手をつやつやと見せ合うて


依光正樹(「クンツァイト」主宰)
手を握るそして離すや冬はじめ
生きて世に冷たき菓子も楽しかり
なつかしく並び歩きし冬木かな
泥の影すぐ日に揚がる池普請


依光陽子(「クンツァイト」)
ひとびとの影かからずや寒牡丹
寒牡丹菰に洩れ日のなかりけり
侘助やことばを交はしたる如く
餅花の乾びて透くる日数かな


加藤知子
たらようの実は熟れ自裁自死の報
落ち椿あのよこのよと踊りつつ
AIの場所によっては雪か雨


関悦史
ヒポクラテス顔貌で来る冬ならむ
何ものか大笑ひして冬の暮
一月の身は木星の如くあり
初雪は一歳児らを知覚せり
月蝕のさなかの飢ゑと寒さかな
自殺法ネット検索して冬晴
老い縮む国なり冬のスーパーも


小林かんな
マスクして南瓜の異形見にゆかむ
寒茜八坂倶楽部に袖を振る
広辞苑雪は足りないかもしれぬ
解熱剤すでに梟青みたる
くり返す律動金魚冬銀河

2018年2月16日金曜日

平成二十九年 冬興帖 第六(真矢ひろみ・川嶋健佑・仙田洋子・仲寒蟬・望月士郎・青木百舌鳥・下坂速穂)



真矢ひろみ
前をゆくは笠智衆らし枯木道
風花にゐる産道をゆく如く
風景に余白を探す海鼠かな
社交性無くて連夜の関東煮
相撲協会危機管理局ヒアシンス


川嶋健佑(船団の会)
  卍・・・・・雪解
音階を登れば触れる冬の雲
氷雨降り強盗団が来る不安
愛は足りてますか冬の充電器


仙田洋子
冬の川うすぼんやりと日を浮かべ
綿虫のふつと見えなくなる高さ
綿虫のまはりしいんとしてをりぬ
ゐなくなるために綿虫飛んでゐる
開戦日水族館のしづかなる
雪女郎あはれ面を伏せしまま
人類の絶滅後の日脚伸ぶ


仲寒蟬
何も足さず何も引くことなく冬田
事あらば北の守りや松葉蟹
  山盧3句
山の名を確かめてゐる冬日和
芋茎干しゐたり山盧を守りゐたり
連山初冬蛇笏もここに立たれけり
  池上本門寺2句
くろぐろと冬日を吸ひて五重塔
短日の伽藍に人のまだまだ入る


望月士郎
液晶に触れて人差指くじら
蝶凍ててページに透ける逆さ文字
鶴折ると梟が息入れに来る
ロザリオや白鳥の詩を空で言う
二択だけど鮟鱇鍋と言ってみる
ぬかりなく寒満月より縄梯子
遠火事の残像として兎の目


青木百舌鳥(夏潮)
ハンターの店よサンダルウッドの香
裸木の身の丈に日を享けにけり
日の満ちて鳥語の遠し冬至梅
樅の間にチャペル明るき雪後かな


下坂速穂(「クンツァイト」「秀」)
冬ざれや鷺のまはりを歩む鳥
冬鳥よさくらと憶ふ切株よ
呼びたき鳥除けたき鳥や寒かりし
一鳥も寄せぬ構への寒牡丹