2017年6月23日金曜日

平成二十九年 春興帖 第十(水岩瞳・北川美美・早瀬恵子・小沢麻結・佐藤りえ・筑紫磐井)



水岩瞳
薄氷をすべて割りますランドセル
鞦韆を山へ空へと擲てり
蒲公英に有刺鉄線内と外


北川美美 
春遅々と黒く濡れたる犬の鼻
Nirvarna(n+1)倍の雨
華麗なる鬱という文字桃の花


早瀬恵子(同人誌「豈」)
八寸の皿に峰あり春席膳
咲き立てる荷風かばんに鬱金香
禁教下親指聖母愁う春


小沢麻結
花びらのひとひらとなきチューリップ
花冷や出来立てを買ふあぶり餅
運の良き人にあやかり雛あられ


佐藤りえ
花闇に蓄光塗料の指の痕
盗賊A盗賊Bと風下へ
アントニーからウイルス削除の小鳥来る
散つてなほ桜を辞めぬ桜かな


筑紫磐井
訪問着 春の虚子庵にどれ着やうか
さみどりの系に閉ぢこめうぐひす抄
台東や猫のつそりと恋にあるく
鶯餅十人並みは不思議な顔

2017年6月16日金曜日

平成二十九年 春興帖 第九(下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・真矢ひろみ・西村麒麟・望月士郎)



下坂速穂(「クンツァイト」「秀」)
そこにゐて手に来ぬ鳥よ鳥雲に
猫といふ姿形の春愁
花冷の狐憑きとはこんな顔


岬光世(「クンツァイト」「翡翠」)
案内する袖のさみどり百千鳥
をんな来て白蒲公英の気やすさよ
再会の桜や硬派なりし人


依光正樹(「クンツァイト」)
水鳥の数ある垣を繕ひぬ
大寺や水輪と見れば春の雪
高きまで鈴を鳴らして春岬


依光陽子(「クンツァイト」)
森のしづか水のしづかを抱卵期
苗札を立てて眠つてゐる土で
初蝶と指してしばらく無二の蝶


真矢ひろみ
末黒野に始まる宙の真澄かな
春の宵おひねりが飛ぶ空爆も
彼岸へと直線貸方命借方桜
光年の揺らぎの果てに春の虹
蹴り正す花烏賊の頭を西向きに 
雁風呂や夕日の浜を入れて焚く
花のままでゐる唇を読み違へ


西村麒麟
鶯やもの売る人として我等
口の先すぼめて亀の鳴きにけり
鳥の死を哀しむ川や朝桜
黒柿の重き座卓や花の宿
蜷の道詰まらなさうに曲がりけり


望月士郎
余寒なお背骨を通り過ぐ夜汽車
ノックする人差指の骨きさらぎ
雛壇の男女関係かんがえる
六年後の背中に風船売の来る
春の蛇巻尺の端もってくれ
明日あたり白鳥帰る風 鎖骨
ミモザ揺れ生まれる前にいた港

2017年6月9日金曜日

平成二十九年 春興帖 第八(羽村美和子・渕上信子・関根誠子・岸本尚毅・小野裕三・山本敏倖・五島高資)



羽村美和子(「豈」「WA」「連衆」)
啓蟄のアラビア文字が笑いだす
花辛夷空は剥落し続けて
風葬の風のはじまり根白草
ヒヤシンス す・さす・しむとは使役
沈丁花どこまで香りか秘密か


渕上信子
スカイツリーの土筆の空よ
玻璃戸のむかう二月輝く
恋猫のごと恋せしことも
花冷に来て御座なりのハグ
逃水のさき蕪村すたすた
終末時計すすむ春昼
入社式挨拶はAI


関根誠子
春昼やウメノキゴケの密かなる
真砂女大師ホワイトデーをわたくしす
花を待つ心くさめとなりにけり
花曇とろり渦巻く池の面
飛花落花大声あげてゐる虚空


岸本尚毅
漂ふが如き寒さや蝌蚪を見る
春雨の今日いくたびの雨あがり
雨ながらものの芽遠く見ゆるかな
あたたかや石をへだてて違ふ苔
白木蓮眺めて辛夷なつかしく
梅ほどの白さの花を初桜
花は過ぎ新川崎の駅も古り


小野裕三
春に目眩む沖に客船都市に愛
サーカス団つやつや並ぶ木の芽雨
紋章の麗らかなれば町に住む


山本敏倖(山河代表・豈)
連翹の左心房なら別冊
花びらを踏まないように調律す
感触は海市一の糸からまる
天球の一片に挿す黄水仙
蛇行してこの世に辿り着くつつじ


五島高資
蛇口から水のふくらむ二月かな
涅槃図を洩れたる影を拾ひけり
腹の底から吐ききつて二月尽
朝へ出る道のうねりや竹の秋
水を送るのみの橋あり春の雨
爪先を回してゐたり春の闇
槌音の木霊や霞む室根山

2017年6月2日金曜日

平成二十九年 春興帖 第七(前北かおる・神谷波・青木百舌鳥・辻村麻乃・浅沼 璞・中村猛虎)



前北かおる(夏潮)
うららかや神坐す島に人寄らず
谷川に大石乾く日永かな
古草の中に灌木白骨化


神谷波
留守中の落ちはうだいの椿かな
支障なく花びらばらけチューリップ
桜から桜へ鱏のやうにゆく


青木百舌鳥
紅を地に引かれゆく落花かな
クレーンがビル築きをる花の雲
摘草を茹でて茹で湯を毒草へ
楠紅葉を過ぎつつ風の縒られける


辻村麻乃
茎立ちや生まれ変はりたる心臓
次こそのこその不実さ蚕卵紙
空を見て飲み干す女聖五月


浅沼 璞
春月の屋上に傾ぐオルガン
丘にゐる海星の脈拍など思ひ
学問をする気はなくて囀れる
ゆく春の横文字墓のうらに廻る


中村猛虎(姫路風羅堂第12世)
はじまりはLINE終わりは山桜
囀りを因数分解してみよう
三月十一日の海岸に泡無数
人間に七竅ありて三鬼の忌
人類は絶滅危惧種蝌蚪の紐
春キャベツ卵子二つに子宮ひとつ
草餅の福島原発内ローソン

2017年5月26日金曜日

平成二十九年 春興帖 第六(渡邉美保・ふけとしこ・坂間恒子・椿屋実梛)



渡邉美保
独活と烏賊若布と酢味噌相関図
花冷えの手に渡さるる特急券
鳩笛の音のくぐもり花万朶
かげろふをたがやしている男かな
アーモンド齧り蛙の目借時


ふけとしこ
見てゐれば一羽が二羽に春の鴨
貝殻の沈んで白き春の水
紙袋二枚重ねに持ち朧


坂間恒子
首塚にさるのこしかけ連用形
首塚のとなり山猫料理店
さえずりの火箭朱雀門聖別す
レトリック辞典ひらけば青大将


椿屋実梛
抱かれしあとの春雨振り払ふ
品川に乗換へをして春の虹
打刻して帰るパートや夕桜
海の向かふひたすら空の五月かな
マグカップ濯いでつかふ春ゆふべ

2017年5月19日金曜日

平成二十九年 春興帖 第五(内村恭子・仲寒蟬・松下カロ・川嶋健佑)



内村恭子
浅春や眉をきりりと狐絵馬
白梅や蕾は清らなる緑
春浅き三条に買ふ酸茎かな
春温し人寄れば鯉泳ぎ出す
白梅や根付に千の物語
浅春や京の深きに鹿ヶ谷
春昼や蛇腹で閉ぢるエレベーター



仲寒蟬
啓蟄のはちきれさうな餃子かな
その中の一人は刺客花衣
一ヶ所に○春宵の解剖図
ファックスの紙の丸まる仏生会
深海生物大図鑑へと菜飯こぼす
春水の濁るとはよみがへること
馬を見かけず春昼の競馬場



松下カロ
きさらぎの青年をまた見失ふ
責め具とも春の回転扉とも
百人の男うつむく鳥帰る



川嶋健佑(船団 鯱の会 つくえの部屋)
駅舎傾いて新生活はだるい
春風が吹いても今日は家にいる
蛍光灯割れてきらきら風光る
言い訳をまず言ってみる石鹸玉
愚痴ってもいい春霖の傘の下

2017年5月12日金曜日

平成二十九年 春興帖 第四 (仙田洋子・木村オサム・小林かんな・池田澄子)



仙田洋子
哭くことを許されず鳥帰りけり
てふてふのこぼす涙のごときもの
たらちねの春眠にして永眠す
春時雨母逝きし日の終りけり
死にたての母よ桜が咲きました
うららかや母の永眠はじまりて
花万朶母を焼くことおそろしく



木村オサム(「玄鳥」)
囀らぬ鳥から先に巣立ちをり
チューリップ天使が酒を注ぎに来る
蝌蚪の紐散りぬ聖母の生あくび
春眠や水切り石の沈むとき
口中に夜桜見えて家出せり



小林かんな
春の昼迷子のインコ名はリリイ
シラウオとシロウオは別ココロセヨ
胴体を出て脚二本清順忌
春灯君二度付けをするなかれ
記入欄よりこぼれ出す雪柳



池田澄子
生まれていて未だ死ななくて迎春花
アネモネを活けて砂糖はひかえずに
空気清いか桜の花花の隙間
風ふっと途絶え柳の芽の可愛い
野よ川よ花よ人よと雨が降る
共謀罪とや散る花に嗚呼と言うな
惜春やパレットも絵具の白も汚れ